It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

ホーンティング

「ホーンティング」

あの傑作「ヘル・ハウス」ならぬ「ヒル・ハウス」が舞台の幽霊屋敷もの。「怖くない」との評判を聞いていたが、怪異の正体が不明な前半はなかなか怖い雰囲気がある。怖くないのは正体(出てくる理由)が分かった後半で、これはたいていのホラーだってそうなのであるから仕方ない。凄い音響(ドルビー・デジタル・サラウンドEX)と最先端のSFXで攻めてこられても、「ふーん、そういう理由ならしょうがないね」と感じてしまう。屋敷に巣くう幽霊の撃退法があっさりしていて食い足りず、ストーリーに新機軸もない。SFXの物量も圧倒されるほどではないが、退屈しない程度の出来には仕上がっている。

原作はシャーリー・ジャクソン「山荘綺談」(ハヤカワ文庫。創元推理文庫版は「たたり」)。ロバート・ワイズ監督「たたり」(1963年)のリメイクである。不眠症の3人の男女が大学教授マロー(リーアム・ニーソン)によって丘の上に立つ大きな屋敷「ヒル・ハウス」に呼び寄せられる。表向きは睡眠障害の研究のためだったが、実は恐怖の研究が目的だった。3人は母親を11年間世話した挙げ句、住んでいたアパートを妹夫婦に追い出されたネル(リリ・テイラー)と活発な美人テオ(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)、皮肉屋のルーク(オーウェン・ウィルソン)。屋敷には不気味な管理人夫妻がいるだけで、夜は無人。しかも街からは遠い。教授は3人に屋敷の秘密を打ち明ける。屋敷は100年以上前、ヒュー・クレインという織物業で成功した実業家が建てた。クレインは事業では成功したが、家庭的には不幸で妻は次々に死産を繰り返した後、自殺した。クレインの死後、地元では夜になると、子どもの声が聞こえると恐れられている。

教授らが屋敷に着いたその夜から、怪異現象が続発する。教授の助手は突然ピアノ線が切れて、目にケガをする。真夜中に大きな音が響き、急激に気温が下がる。そしてネルには子ども達の声が聞こえてくる。ネルは教授から電話をもらって屋敷に来たのだが、教授はそんな電話はしていないという。それなら誰がネルを呼んだのか。やがてネルは子どもの霊に導かれ、屋敷の本当の秘密を知る。

原作も読んでいないし、「たたり」も見ていないが、ネルはどちらでもサイキック(霊媒)という設定らしい。今回は少し神経症的というだけで、特異な能力はない。屋敷との特別な関係が幽霊撃退のポイントになる。クライマックスがあまり盛り上がらないのはこれが原因だろう。ま、サイキックが登場した「ヘル・ハウス」にしても結局、屋敷の秘密を解くことで幽霊退治をしたのだったが、そこまでにはサイキックの活躍があった。こういう部分も欲しかったところだ。フィル・ティペットとILMが担当したSFX自体は良くできているし、豪勢な屋敷のセットも見事。しかしヤン・デ・ボン監督の演出には恐怖を形成するのに必要なきめ細やかさが欠けていた。

贔屓のキャサリン・ゼタ=ジョーンズは彩りを添える程度の役柄で残念。それ以上に残念なのはヴァージニア・マドセンがほんとのチョイ役であること。かつては注目の美人女優だったんですけどね。実質的な主人公リリ・テイラーはジョーンズと並ぶと、少しかわいそうな気もするが、好演している。

【データ】1999年アメリカ映画 1時間53分 ドリームワークス作品 UIP配給
監督:ヤン・デ・ボン 原作:シャーリー・ジャクソン「山荘綺談」(ハヤカワ文庫)「たたり」(創元推理文庫) 脚本:デヴィッド・セルフ 撮影:カール・ウォーター・リンデンローブ 音楽:ジェリー・ゴールドスミス 
視覚効果監修:フィル・ティペット クレイグ・ヘイズ
出演:リーアム・ニーソン キャサリン・ゼタ=ジョーンズ リリ・テイラー オーウェン・ウィルソン ブルース・ダーン マリアン・セルデス ヴァージニア・マドセン

TOP