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シネマ1987online

フー・アム・アイ

「フー・アム・アイ」

10年ほど前にジャッキー・チェンのアクションはもう限界だろうと思った。当時30代半ば。一般的なアクション俳優ならば、転換を考え始める年齢である。事実、「龍兄虎弟 サンダーアーム」の撮影中に重傷を負った後、驚異的なアクションから離れたこともあったのだが、ジャッキーに一般論は通用しなかった。その後やはりアクションの世界に戻ってきたのは周知の通り。今年45歳(撮影当時は43歳)。それなのにこんな命がけの奇跡的なアクションができることに驚きを感じざるを得ない。ジャッキーはデビュー以来の21年間、ずっとアクション映画のトップランナーであり続け、今もまだ世界最高のアクションスターなのである。この映画でそれを証明している。空前にして恐らく絶後、不世出のアクションスターという思いを強くした。

南アフリカの鉱石発掘場面で映画は幕を開ける。それを研究所に運ぶ途中、鉱石は爆発してしまう。鉱石は莫大なエネルギーを持つ隕石で、科学者がその利用を研究中だった。場面変わって、ジャングル。特殊部隊が科学者を乗せた車を襲い、3人の科学者を連れ去る。特殊部隊の一員だったジャッキーは、なぜか重傷を負い、原住民に助けられた。しかし、けがをした理由や自分が誰なのか記憶を失っている。回復したジャッキー原住民の村を出て、サファリを行く途中、ラリーの日本チームに出会い、けがをした運転手に変わってラリーを突っ走り、優勝してしまう。病院で取材攻勢を受けながら、自分が誰なのか調べ始めたジャッキーは、事件にはどうやらCIAが絡んでいることを知る。CIAの幹部が隕石を悪用し、兵器商人に売りつけようとしていたのだ。特殊部隊は役目を終えた後、皆殺しにされたらしい。ジャッキーは取材で知り合った女性記者クリスティーン(ミシェル・フェレ)とともにアムステルダムに向かい、組織の陰謀を断とうとする。

はっきり言ってストーリーに破綻はあるのだが、ジャッキー・チェンの映画の場合、ストーリーなどジャッキーの体技を見せるための単なる設定に過ぎない。原住民の村でライオンに追いかけられたジャッキーがポン、ポン、ポンと木に登って難を逃れる場面やクライマックスのビルの屋上での死闘を見て痛切にそう思う。ビルの屋上の場面は恐らく映画史に残るだろう。2人の男とクンフーアクションを展開するジャッキーはあわやビルから転落しそうになる。命綱などつけているようには見えないのが凄いところで、高所恐怖症の人間には極めて心臓に悪い。しかもそれを笑ってやっているのだ。ビルの急斜面を落ちながら逃げる場面がこれに続くが、こんな場面、他のアクションスターではまずできないだろう。

ジャッキーがアクションのトップスターとなったのは、私見では84年の「プロジェクトA」以降である。「プロジェクトA」はハロルド・ロイド、バスター・キートンの影響が濃厚な映画で、僕はこれで初めてジャッキーの目指すものが見えた。体を張ったアクションとコメディ。最初は模倣から始まったにしても、その種の映画でジャッキーは頂点に登り詰めた。

現在までにジャッキーの映画は35本を数える。これはもうアクション映画の1ジャンルなどではなく、ジャッキー・チェン映画というジャンルを形成するのに十分な数だ。ジャッキーのあり方は他のだれにも負けない独自性を持っており、既にロイドやキートンを超えている。「種において優秀なものは種を超える」。ジャッキーの映画にはダーウィンのこの言葉がそのまま当てはまる気がする。ジャッキーと同時代に生きることの幸せを感じずにはいられない。

【データ】1998年 香港映画 2時間 ゴールデン・ハーベスト提供 
監督・脚本・武術指導・主題歌:ジャッキー・チェン 製作総指揮:レナード・ホー 共同監督:ベニー・チャン 脚本:スーザン・チャン リー・レイノルズ 撮影:プーン・ハンサン 美術:オリバー・ウォン 音楽:ネイサン・ウォン 主題曲:エミール・チョウ
出演:ジャッキー・チェン ミシェル・フェレ 山本未来 ロン・スメルチャク エド・ネルソン

ジャッキー・チェン フィルモグラフィー】「スネーキーモンキー 蛇拳」「ドランクモンキー 酔拳」(1978年)「クレージーモンキー 笑拳」(1979年)「ヤング・マスター 師弟出馬」「バトルクリーク・ブロー」「キャノンボール」(1980年)「ドラゴンロード」(1982年)「五福星」「キャノンボール2」(1983年)「プロジェクトA」「スパルタンX」(1984年)「大福星」「七福星」「プロテクター」「ファースト・ミッション」「ポリス・ストーリー 香港国際警察」(1985年)「サンダーアーム 龍兄虎弟」(1986年)「プロジェクトA2 史上最大の標的」「サイクロンZ」(1987年)「九龍の眼 クーロンズ・アイ」(1988年)「奇蹟 ミラクル」(1989年)「プロジェクト・イーグル」(1990年)「炎の大捜査線」「ツイン・ドラゴン」(1991年)「ポリス・ストーリー3」(1992年)「シティーハンター」「新ポリスストーリー」(1993年)「酔拳2」「レッド・ブロンクス」(1994年)「デッドヒート」(1995年)「ファイナルプロジェクト」(1996年)「ナイスガイ」(1997年)「WHO AM I ? フー・アム・アイ」「ラッシュアワー」(1998年)「ゴージャス」(1999年)

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