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ファイト・クラブ

「ファイト・クラブ」

この映画ほど、予告編と本編のイメージが違う映画も珍しい。予告編では「ストリート・ファイター」や「ダーティー・ファイター」(古いね)のようなストリート・ファイトを描いた作品と思わされたが、本編のテーマはそんなところにはない。不眠症に悩む青年ジャック(エドワード・ノートン)が陥る破壊への衝動。サイコロジカルな映画なのである。今夏にアメリカで起こった銃乱射事件に影響したと話題になった作品で、現代人の精神の病巣をえぐってなかなかに興味深い。極小から極大へと縦横に動き回るカメラを駆使し、デヴィッド・フィンチャーはタイトな演出を見せた。2000年正月映画では一番の注目作。

映画はジャックがビルの一室で拳銃を口に入れられた場面から始まる。周囲のビルには爆薬が仕掛けられ、爆発の時間が迫っている。なぜ、こんなことになったのか。映画はジャックの回想で描かれる。ジャックは自動車会社のリコール調査員として全米を駆け回っている。豪華なコンドミニアムで暮らすヤッピーだが、ひどい不眠症に悩まされていた。医者から「そんなのは苦しみじゃない。本当の苦しさを知りたかったら、ガン患者の会に行け」と言われ、睾丸ガン患者の告白の会に出席する。患者同士で涙を流し合うことで安らぎを得たジャックは次々にそうした告白の会に出席するようになる。そうしているうちに自分と同じように会を渡り歩く女マーラ(ヘレナ・ボナム・カーター)と出会う。マーラは「映画より面白い。コーヒーもただで飲めるもの」と理由を話す。

ある夜、ジャックが出張から帰ると、コンドミニアムはガス爆発を起こしていた。泊まるところもなく、困ったジャックは飛行機の中で隣に座った男タイラー・ダーデン(ブラッド・ピット)に助けを求める。タイラーとは同じカバンを持っていたことから話が合い、名刺を交換していた。一緒に飲みに出た帰り、タイラーは「泊めてやるから、俺を殴れ」という。暴力とは無縁の生活を送っていたジャックはタイラーと殴り合うことで、解放感を得る。タイラーの廃屋で一緒に生活を始め、週末には殴り合うようになるのだ。殴り合いに共感する仲間は徐々に増え、秘密のファイト・クラブが結成される。クラブ内での暴力はやがて外に向かうようになり、そしてクラブはジャックが予想もしなかった狂気の破壊集団へと変わっていく。

紹介が長くなったが、このストーリーは表面的なもので、映画はその奥に現代的な主題を抱える。表面的なストーリーとこのテーマが絡み合い、焦点深度が深い作品になった。肉が裂け、骨が砕ける暴力になぜ人は惹かれるのか。カルト集団はなぜ生まれるのか。この映画はそうした世紀末のアメリカが抱える病巣を照らした作品とも言える。個人の病巣と社会の病巣が一致するところに怖さがあるのだ。ビジュアルな描写も含めて、デヴィッド・フィンチャーは初めて自分のスタイルを確立したようだ。エドワード・ノートンとブラッド・ピットの演技も納得のいくレベルである。

【データ】1999年 アメリカ映画 2時間19分 製作総指揮:アーノン・ミルチャン 製作:アート・リンソン ショーン・チャフィン ロス・グレイソン・ベル
監督:デヴィッド・フィンチャー 原作:チャック・ポーラニック「ファイト・クラブ」 脚色:ジム・ウールス 撮影:ジェフ・クローネンウェス 音楽:ザ・ダスト・ブラザーズ
出演:エドワード・ノートン ブラッド・ピット ヘレナ・ボナム・カーター ミート・ローフ・アディ ザック・グレニアー デイビッド・アンドリュース ジョージ・マクガイアー ユージニー・ボンデュラント クリスティナ・キャボット

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