It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

ブレア・ウィッチ・プロジェクト

「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」

状況が怖い。森から抜け出られなくなったという状況だけでも十分に怖い。主人公たちは迷宮の森に歩き疲れ、空腹で神経がまいってくる。それでも同じところをぐるぐる回るだけで出口は分からない。夜には怪異が襲ってくる。逃げ場はない。そんな極限状況だけを描いて、これは真っ当なホラーだ。普通のホラーなら観客サービスとして用意する怪異の正体を描かなかった(予算的に描けなかった?)のは正解と思う。怪異が正体を現した瞬間、怖さは消え失せてしまうのが常なのだから。何も明らかにされないまま映画は終わるので、それを補完するウェブサイトや本があるけれど、ほとんど不要なものと言うべきだろう。映画としてはこれで完結しているのである。ドキュメンタリー的手法に話題が集まりがちだが、僕はこの不安な極限状況を設定したことが映画の成功のポイントと思う。製作者たちに予算はなかったが、アイデアは豊富にあった。

1994年10月、メリーランド州パーキッツヴィルの森近辺でドキュメンタリーを撮影していた映画学科の生徒3人が行方を絶った。1年後、彼らの残したフィルムとビデオだけが発見された。映画はこのフィルムとビデオを再構成して時系列に並べたものという設定で、8日間の出来事が描かれる。3人の目的はこの町に伝わるブレア・ウィッチ(ブレアの魔女)伝説を映画にすること。町の人々をインタビューした後、3人は森の中に入る。テントで一夜を明かした翌日、カメラマンのジョシュアが「夜中に音がした。そのうち一つは人の笑い声だった」と話す。この音は夜毎に大きくなり、5日目の夜には激しくテントを揺さぶられる。恐怖を覚えた3人は森から帰ろうとするが、地図がなくなっており、完全に道に迷ってしまう。パニックに陥る3人。森の中には木の枝で作った不気味なオブジェクトや積み上げた石が散見する。何時間歩き続けても結局、元の場所に帰ってしまう。そして7日目の朝、起きるとジョシュアの姿が見えなくなっていた。その夜、ジョシュアの声が聞こえる。次の日、2人はジョシュアを探して森の中をさまよい、1軒の廃屋を発見する。

俳優の生身の反応を撮影するため、映画は実際に3人にカメラを持たせ、森の中をさまよわせたという。GPS(グローバル・ポジショニング・システム)で位置を確認し、決められたポイントからポイントへ移動させた。台本はなく、俳優たちには簡単なプロットのみが伝えられた。食料をわざと減らし、いらいらが募るようにした。その結果、16ミリ白黒の画質の荒い画面とビデオ(フィルムに転換してある)のリアルな撮影ができた。当初は森のシーンの前後にブレア・ウィッチを巡る話や捜索の様子を付け加える予定だったが、森のシーンがリアルで他のエピソードとかみ合わないため、これだけで公開したのだという。

確かにインターネットやテレビ、雑誌、書籍など映画以外のメディアを絡めた宣伝法がアメリカでの成功の一因にはなっているだろう(映画の最後には“for more www.blairwitch.com”と出る)。しかし映画自体に力がなければ、この方法は成功しなかったと思う。森の様子が迷宮には見えないなどの瑕瑾はあるにしても、この映画、じわりじわりと恐怖を盛り上げていく演出が大変うまい。登場人物たちの視点だけで構成し、説明調の場面を一切排除したことが効果を上げている。

【データ】1999年 アメリカ 1時間21分 アスミック・エース/クロックワークス/松竹配給
監督・脚本・編集:ダニエル・マイリック エドゥアルド・サンチェス 製作総指揮:ボブ・アイク ケヴィン・J・フォックス 撮影:ニール・フレデリクス 音楽:トニー・コーラ プロダクション・デザイン:ベン・ロック アートディレクション:リカルド・モレノ
出演:ヘザー・ドナヒュー ジョシュア・レナード マイケル・C・ウィリアムズ

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