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ホワット・ライズ・ビニース

「ホワット・ライズ・ビニース」

パンフレットを眺めていたら、浴槽の中に鏡を仕込んだ撮影シーンがあった。なるほど、こんな風に撮影したわけか。本編では水を張った浴槽をのぞき込んだミシェル・ファイファーが別の女の顔を見つけて恐怖におののくシーンとなる。クライマックス、ファイファーとハリソン・フォードを床下から俯瞰したショットにはロバート・ゼメキスはヒッチコックのように撮影に凝っているのである。映画の作りもアラン・シルヴェストリのまるで「サイコ」「めまい」のバーナード・ハーマンを思わせる音楽からしてヒッチコック映画の影響が感じられる。予告編では心霊ホラーとしか思えなかったし、実際にもこの部分が大変怖いのだが、これにヒッチコックやアンリ・ジョルジュ・クルーゾー「悪魔のような女」の味わいをプラスしているわけである。ただしゼメキスの怖がらせる演出は背後から「ワッ」と脅かすような場面が至るところにあって、あざとさが目に付く。前半の「裏窓」的シチュエーションはなかなかいいのだから、ここのサスペンスを基調にして映画を構成した方が好ましかった。心霊ホラーの苦手な僕はそう思う。

クレア・スペンサー(ミシェル・ファイファー)は科学者の夫ノーマン(ハリソン・フォード)とともにヴァーモントの湖の畔にある豪華な家に住んでいる。娘のケイトリンが大学に入って夫婦2人きりの生活。隣には最近、夫と同じ職場の夫婦が越してきた。夫婦仲が悪いのか、いさかいが絶えず、クレアは昼間、泣いている妻を目にする。さらにその夜、嵐の中を車のトランクに大きな荷物を詰め込む隣家の夫の姿を目撃した。いかにも不審な行動。心配したクレアは翌日、引っ越し祝いを兼ねて隣家に花束を持っていくが、家は無人の様子。しかもポーチには血のついたサンダルが落ちていた。その夜からクレアの家の中で不思議な出来事が続発する。風もないのにドアが開く、突然パソコンに電源が入る、そしてバスタブの中に女の顔が浮かぶのを見ることになる。隣家の妻は殺されたのか。クレアは次第に不安を募らせ、精神的に追いつめられていく。

以上が「裏窓」的なシチュエーション。ゼメキスはここをホラーのように演出している。ジェームズ・スチュアートとグレース・ケリーが優雅な会話を交わし、ロマンティックでユーモラスに始まった「裏窓」とは異なり、いきなりのホラーなのである。演出のタッチは最後までこの調子で気が抜けない。というか、ヒッチコックを引用してはいてもこの作品は予告編が示した通り(ストーリーは予告編で感じた通りではないが)ホラーそのものなのである。そして繰り返しになるが、ホラーとしてはとても怖い。それならば、前半のこのエピソードは何なのかということになる。このエピソードは途中であっさりと解決し、本筋が始まるのだが、そういう展開をするのであれば、ここが必要だったのかどうか、全体から見ると疑問に思わざるを得ない。

もう一つ、真相が明らかになった後に延々と続くクライマックスも手際が悪い。こういうことをやっているから上映時間が2時間10分にもなってしまうのである。このクライマックスの最後の部分は個人的には最も恐怖を感じたところだが、その前の部分、ミシェル・ファイファーが危機にさらされるスラッシャー的場面が長すぎるのである。どうもこの映画、いろんな要素をたくさん詰め込んだのがマイナスに働いてしまったようだ。技術的には高度なのにうまさを感じさせないのである。

【データ】2000年 アメリカ 2時間10分 配給:20世紀フォックス
監督:ロバート・ゼメキス 製作総指揮:ジョン・ブラッドショー マーク・ジョンソン 製作:スティーブ・スターキー ロバート・ゼメキス ジャック・ラプケ ストーリー:サラ・ケノシャン クラーク・グレッグ 脚本:クラーク・グレッグ 撮影:ドン・バージェス プロダクション・デザイナー:リック・カーター ジム・ティーガーデン 音楽:アラン・シルヴェストリ 衣装デザイナー:スージー・デサント 視覚効果スーパーバイザー:ロバート・レガート
出演:ハリソン・フォード ミシェル・ファイファー ダイアナ・スカーウィッド ジョー・モートン ジェームズ・レマー ミランダ・オットー アンバー・バレッタ キャサリン・トーネ レイ・ベイカー ウェンディ・クルーソン

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