ファム・ファタール
劇中で流れるのは「ボレロ」かと思ったら、「ボレロみたいな曲」を監督の求めに応じて坂本龍一が書いたのだそうだ。いや、ほとんど「ボレロ」ですね、これは。これ以外の曲は「めまい」みたいである。ミッション・トゥ・マーズ」(2000年)以来になるのだが、もっと初期の「キャリー」「愛のメモリー」「フューリー」「殺しのドレス」「ミッドナイトクロス」「ボディ・ダブル」あたりを彷彿させるタッチだ。クライマックスのスローモーションの使い方などは、もろ「フューリー」。脚本が弱いので全体として成功しているとは言い難いのだが、映像と音楽で語るデ・パルマの技術は一級品である。もうほれぼれするほど官能的でサスペンスフルなシーンがいくつかある。デ・パルマは大作よりもこういう小さなサスペンスを撮らせた方が本領を発揮する。サスペンスの語り方を一番よく知っているのである。
カンヌ映画祭の会場でモデルのベロニカ(リエ・ラスムッセン)から1000万ドル宝石を散りばめたビスチェを強奪しようと、3人の男女が映画祭に潜入する。カメラマンとして潜入したロール(レベッカ・ローミン=ステイモス)は、ブラック・タイ(エリック・エブアニー)と組んでトイレにベロニカを誘い、ビスチェを脱がせてすり替える。盗みに成功したかに見えたが、あと一歩のところで警備員が気づき、ブラック・タイは撃たれてしまう。ロールは仲間を裏切り、アクセサリーをバッグに入れて一人で会場を後にする。
と、ストーリーが書けるのは冒頭のこの部分だけ。ここから映画は別の展開に突入する。音楽同様、「めまい」にインスパイアされたような話で、パンフレットではネタをほとんど割っているが、まあ仕方がないだろう。過去のデ・パルマ映画にもあったようなネタで、これを見て怒るようでは映画ファンとして修業が足りない。脚本がいかにいい加減であっても、映像で何とでもしてやるという感じがデ・パルマにはあって、トイレの中のラブシーンとか、アパートのシーンとか、酒場のシーンとかは見せる見せる。映像の力がそこらの新米監督とは格段に違う。
主演のレベッカ・ローミン=ステイモスは「X-メン」のミスティーク役とは違って、素顔で悪女役を好演。相手役のアントニオ・バンデラスは従来のデ・パルマ映画なら、もっと若い俳優が演じていただろう。傑作とは言えないけれど、デ・パルマ復活の印象が強く、どうかこの路線で今後も映画を作り続けてほしいと思う。
【データ】2002年 アメリカ 1時間55分 配給:日本ヘラルド映画
監督:ブライアン・デ・パルマ 製作:タラク・ベン・アマール マリナ・ゲフター 製作総指揮:マーク・ロンバード クリス・ソルド 脚本:ブライアン・デ・パルマ 音楽:坂本龍一 撮影:ティエリー・アルボガスト 美術:アン・プリチャード 衣裳:オリヴィエ・ベリオ
出演:レベッカ・ローミン=ステイモス アントニオ・バンデラス ピーター・コヨーテ エリック・エブアニー エドゥアルド・モントート リエ・ラスムッセン ティエリー・フレモン グレッグ・ヘンリー ダニエル・ミルグラム