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るろうに剣心

相楽左之助(青木崇高)と戌亥番神(須藤元気)が台所で延々と殴り合うシーンで、途中、相楽がそばにあった肉を食い、酒を飲む。「菜食主義だから」と肉を断った戌亥は酒だけ飲んだ後に再び殴り合う。アクションの途中に一休み入るこの流れは香港映画を思わせる。アクション監督の谷垣健治はドニー・イェンに師事したそうだから、その影響なのだろう。

「るろうに剣心」は戦前から綿々と作られ、近年は少なくなった時代劇の中でエポックメイキングな作品と言って差し支えないと思う。三池崇史「十三人の刺客」の中で一瞬きらめき、目を見張らざるを得なかった松方弘樹の殺陣の凄まじいスピードがこの作品の殺陣にはあふれている。実は予告編を見たときには「亀梨に殺陣ができるのかよー」と思ったのだが、主演は亀梨和也ではなく、佐藤健であり、佐藤健は撮影開始前に3カ月、撮影中の4カ月にも殺陣の練習に打ち込んだのだそうだ。殺陣の練習で軽いけがをした時に「けがをしたのは練習が足りないから」と言って練習量を増やしたという。だからこそ、時代劇アクションの可能性を新たに切り開く作品が生まれたのだろう。大友啓史監督らスタッフには惜しみない拍手を送りたい。

もちろん、ドラマ的にはもっと盛り上げるべき部分があるし、描写が足りないと思える部分もあるのだけれど、それが些末なことに思えるほどアクションが素晴らしい。加えて、佐藤健、武井咲のコンビに蒼井優、青木崇高らの若い俳優たちがどれもこれも良い。特に武井咲は声が良く、たたずまいが良く、必死さが良い。剣心と鵜堂刃衛(吉川晃司)が闘うクライマックス、鵜堂の術にかけられて身動きできない場面の演技など見ると、武井咲、将来の日本映画を支える女優の一人になるのではないかとさえ思わせる。若い俳優たちの可能性を感じさせる映画としてこれは、園子温「ヒミズ」と双璧ではないか。さらに吉川晃司のドスのきいた役柄と香川照之のずるがしこい悪人ぶりが映画に幅を与えている。佐藤直紀のドラマティックな音楽も素晴らしいの一言だ。

ジャッキー・チェンが「プロジェクトA」に始まる作品群で志向したのはサイレント時代のハロルド・ロイドやバスター・キートンであったのは周知のことだが、大友啓史が目指したのはサイレント時代の時代劇のアクションだったという。キネ旬9月上旬号(1619号)で大友啓史はこう言っている。「ぼくは『るろうに剣心』最終日前日に大河内(伝次郎)の作品を見たの。なんとなく『るろうに剣心』では大河内に勝ったと思ってた。でも、まだ負けてると思って。だから、やっぱり続篇をやらなきゃいけないなと」。歓迎すべきことだ。この映画、ぜひシリーズ化してほしい。そして、時代劇アクションを極めてほしいと思う。

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