ロマンス
中盤、主人公の大島優子と大倉孝二が箱根の山中で車で道に迷うシーンがある。大倉は元々カーナビが嫌いで使わず、そのカーナビ自体、調子が悪いという設定。そんなのスマホのカーナビ使えばいいじゃん、と思ってしまう。山奥で電波が入らないのだろうか。
宮崎キネマ館で開かれたトークショーでタナダユキ監督はロマンスカーのアテンダントは仕事中に携帯を携帯してはいけないことになっていると説明したが、それを映画の中で説明してくれないと、説得力がない。ここに限らず、どうも脚本に弱い部分が散見される。いくら母親から自殺をほのめかすような手紙が届いたからといって上司に連絡もせずに仕事を放り出していいものかとか、そんな深刻な状況なのにのんびり箱根観光なんかしてるなよとか、思えてくるのだ。監督によると、「予算はミニマム」だったらしい。脚本を練る時間もミニマムだったのだろうか。
「百万円と苦虫女」(2008年)以来のタナダユキ監督のオリジナル作品。といってもプロットは向井康介(「もらとりあむタマ子」「ふがいない僕は空を見た」)で、それを監督が脚本化したそうだ。主人公の北条鉢子(大島優子)は小学校のころに両親が離婚。母親が男と頻繁に付き合うようになって高校卒業以来、母親とは会っていない。ロマンスカーのアテンダントをして優秀な成績だが、ある日、ワゴンから男が菓子を万引きするのを見つける。その男、桜庭洋一(大倉孝二)が駅で降りたところで逃げ出すのを鉢子が必死に追いかけているうちにロマンスカーは出発してしまう。桜庭は鉢子がゴミ箱に捨てた手紙を読んで、母親が自殺しそうだと判断。鉢子と一緒に箱根で母親を捜すことになる。
大倉孝二の軽すぎる演技は少し気になるものの、背の高い大倉と大島優子が並んで立つシーンはまるでC-3POとR2-D2のようにコミカルな感じもあって面白い。大島優子は脇に回った昨年の「紙の月」ではいかにも若い女子の雰囲気をまとって悪くなかったし、今回も演技的には頑張っていると思う。しかし、この脚本ではやはり無理がある。前半は箱根観光みたいな描写に終始し、もしかしてこれは箱根の観光協会あたりが資金を出した観光映画ではないかと思えてくる。タイアップした施設のショットを入れる必要があったのだろうが、もう少しうまく見せたいところだ。
タナダユキ監督は次作の上野樹里主演「お父さんと伊藤さん」(中澤日菜子原作)を編集中とのこと。原作のある作品なら前々作の「ふがいない僕は空を見た」のように脚本にも映画の出来にも期待して良さそうだ。