輪廻
「呪怨」の清水崇監督の新作で、35年前に大量殺人があったホテルを題材にした映画のスタッフとキャストが怪異に襲われるホラー。中心となるアイデアは過去にも例があり、記憶をさかのぼってみると、リーインカーネーション(生まれ変わり)が出てくる映画としてはケネス・ブラナー「愛と死の間で」(1991年)とよく似ている。生まれ変わりを描くなら、こうするか、それこそ「リーインカーネーション」(1976年、J・リー・トンプソン監督)のようにするかしかないのだろう(このほか、設定はまったく異なるけれども、ポール・バーホーベンのあの作品とかアラン・パーカーのあの作品も似ていると思う)。
大量殺人のあったホテルと言えば、スティーブン・キング「シャイニング」=映画化はスタンリー・キューブリック=を思い出さずにはいられず、「輪廻」は幽霊屋敷もののバリエーションとも言える(幽霊屋敷ものの最高傑作は「シャイニング」ではなくリチャード・マシスン「地獄の家」=映画化はジョン・ハフ「ヘル・ハウス」=だと思う)。考えてみれば、「呪怨」自体、幽霊屋敷もののバリエーションであったわけだが、あれは場に取り憑いた怨念が無関係の人まで巻き込んでいく怖さがあった。「輪廻」の場合、幽霊屋敷と生まれ変わりをミックスさせた結果、関係者のみが犠牲になることになり、それで怖さが半減している(もっとも、誰が関係者であるのかは本人にさえ分からない)。出来事に合理的な説明があるので怖くなくなったし、スケールが小さくなったのは残念だが、映画のまとまりは、脚本がしっかりしているので「呪怨」よりも上だろう。こういうジャンルで新しいアイデアを取り入れるのは容易ではないが、あと一ひねりしたいところだ。
映画監督の松村(椎名桔平)は35年前、群馬県のホテルで起きた大量無差別殺人を描いた映画「記憶」の製作を進めていた。大学教授が家族を含む11人を殺して自殺した事件。映画のオーディションに行った女優の杉浦渚(優香)はその直後から不気味な少女の幻影を見るようになる。オーディションに合格した渚はスタッフ、キャストともに事件のあったホテルへ行く。そこでも渚は不気味な幻影を見る。やがてその少女は事件の犠牲者で教授の娘だったことが分かる。渚はその少女の役を映画で演じることになっていたのだ。女子大生の木下弥生(香里奈)は小さいころから赤い屋根のホテルの夢を見続けていた。弥生は恋人の尾西(小栗旬)から自分の前世を知っているという新人女優・森田由香(松本まりか)を紹介される。由香には首に絞められたような痣があり、図書館で何者かに連れ去られてしまう。弥生は35年前の事件を調べ、やがてホテルにたどり着く。
クライマックスは犯行が記録された8ミリの映像と映画の撮影現場で渚を襲う怪異とホテルで恐怖にさらされる弥生の3つのシーンが交互に描かれる。荒れ果てたホテルが一瞬にして新しくなるところなどはそのまま「シャイニング」だが、このクライマックスの構成や映画のセットが実際のホテルにオーバーラップしていく場面は映画のオリジナルなところだと思う。冒頭、2人の男が何者かに襲われて死ぬ。実は訳の分からないここが一番怖い雰囲気がある。クライマックスが怖くなく、ある意味笑えるシーンさえあるのは訳が分かってしまったからで、だから観客の予想をもう一度裏切るようなショッキングなひねりが欲しくなるのだ。「ヘル・ハウス」が面白かったのは最後の最後まで謎を引きずった部分があり、それを解くことが幽霊の撃退につながっていたためだ。マシスンのアイデアの勝利といったところか。映画のオリジナルでああいう手の込んだストーリーを考えるのは難しいのかもしれない。
主人公の優香は恐怖に引きつる演技がなかなかうまかった。香里奈も好演しているが、一番のうまみは一シーンだけ出てくる黒沢清か。知的な感じが役柄に合っていた。この映画、一瀬隆重プロデュースによるJホラーシアターの第2弾(第1弾は2004年公開の「感染」「予言」2本立て)。僕が見た劇場では観客4人だった。いくら世界配給が決まっているとはいっても、ヒットしてくれないと、後が続かないのではないか。この映画自体、世界を意識して真っ当なホラーに(暗闇でいきなりワッと脅かすようなあざとい演出を控えめにして)仕上げたのかもしれない。
【データ】2006年 1時間36分 配給:東宝
監督:清水崇 エグゼクティブ・プロデューサー:濱名一哉 小谷靖 プロデューサー:一瀬隆重 脚本:清水崇 安達正軌 撮影:柴主高秀 美術:斎藤岩男 音楽:川井憲次 視覚効果:松本肇 特殊効果:岸浦秀一
出演:優香 香里奈 杉本哲太 小栗旬 松本まりか 小市漫太郎 治田敦 黒沢清 三條美紀 椎名桔平 真島秀和 佐藤貢三 森本浩