Red Shadow 赤影
かつてのテレビシリーズ「仮面の忍者 赤影」の映画版。とは言えない。キャラクターの設定だけを借りて、別の映画にしてしまっている。描かれる2つのミッションの最初のやつがもう最低である。ほとんど笑えない軽薄な描写には、ほおが引きつる。刹那的ギャグ、くだらないギャグ、テレビのコントのレベルの描写でいったい何をしようというのか。赤影をパロディにする必要はまったくなかったし、キャラクターにクールなだけではない人間味を与えたかったのなら、中野裕之監督、徹底的に方法を間違っている。まともなストーリー展開になる後半、2番目のミッションはやや持ち直すのだから、最初からこのタッチで描くべきだった。もっとも、その場限りの描写は多く、芯に骨太のものがない構成ではどうしようもない。映画と観客を甘く見てはいけない。
AD1545年の戦国時代。宇宙から飛来した“無敵の鋼”を代々引き継ぐ忍者集団・影一族は戦国大名・東郷秀信(津川雅彦)に仕え、頭領・白影(竹中直人)の下で赤影(安藤政信)、青影(村上淳)、飛鳥(麻生久美子)の3人が天下統一への任務をこなしている。最初の任務は東郷と対立する大名・六角直正(風間杜夫)の侵略阻止。3人が六角の屋敷の天井裏に侵入すると、そこには多数の忍者の先客がいた、という描写にはあきれる。これ以前の3人の子ども時代の描写の安直さ、赤影と青影の日常会話に出てくる美人銭湯だの美人按摩などという言葉もまた映画の求心力を削ぐだけである。ユーモアはあった方がいいかもしれないが、その場限りのギャグは不要である。新体操の場面など目を疑うほかない。
映画は後半、京極城にある秘密兵器(この兵器も情けなくなるほどのギャグに終わっている)をめぐって、根来弦斎(根津甚八)率いる根来忍者集団と赤影たちとの対決、権力を握ろうとする家老・竹之内基章(陣内孝則)と琴姫(奥菜恵)の確執などを描き、ようやく物語らしくなってくる。少なくとも役者に関しては豪華で、藤井フミヤの忍者も悪くないし、陣内孝則や神山繁、根津甚八などは映画のくだらなさに抵抗するかのように、時代劇らしい演技を見せてくれる。例えば、根津甚八は「闇に生き、闇に消える忍び」の悲哀を何とか表現しようとしている(セリフだけなので成功はしていない)。ここをもう少し緊密に映像化して、前半のアホな描写をばっさり切り落とし、赤影たちのキャラクターをまともに描き込めば、映画はまだ見られるものになっただろう。魅力的だった麻生久美子を早々に消してしまうのも、もったいなかった。
かつての正義のヒーローを素直に映画化することに中野監督は冷笑的な気分を持ったのかもしれない。しかし、そういう視点で映画は成功しない。金子修介、伊藤和典コンビがだれも成功するとは思わなかった平成「ガメラ」シリーズを素晴らしい3部作にしたのは徹底的に怪獣映画を愛し、怪獣映画の設定を考え抜いて突き詰めたからであり、ジャンルにおいて真に優秀なものは狭いジャンルを軽く飛び越えてしまうのである。その場限りのギャグやパロディに逃げるなどという中途半端な姿勢こそ批判されるべきものだ。
【データ】2001年 1時間48分 配給:東映
監督:中野裕之 製作:佐藤雅夫 江川信也 芳賀吉孝 KIM SEUNGBUM 原作:横山光輝 脚本:斎藤ひろし 木村雅俊 撮影:山本英夫 美術:内藤昭 内田欣哉 衣装デザイン:北村信彦
出演:安藤政信 奥菜恵 麻生久美子 村上淳 竹中直人 藤井フミヤ 舞の海秀平 谷啓 きたろう 篠原涼子 でんでん 神山繁 福本清三 田中要次 津川雅彦 松重豊 越前屋俵太 アリーナ・カバエワ 中田大輔 ピエール瀧 スティーブ・エトウ 風間杜夫 吹越満 椎名桔平 布袋寅泰 根津甚八 陣内孝則 矢沢幸治