It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

シコふんじゃった。

傑作。年内の公開だったらベストテンに入れるところだ(残念ながら大相撲初場所に合わせて、来年1月の公開になるそうだ)。周防正行監督と本木雅弘コンビの前作「ファンシイダンス」よりおかしくて、題名通りのセリフで終わるラストまで笑いっぱなしだった。一方で「ロンゲストヤード」や「がんばれ!ベアーズ」「メジャー・リーグ」などのスポーツ・コメディの定石をしっかりと踏まえ、表面的なおかしさだけに終わっていない。相撲をテーマにこんな面白い映画ができることなど予想もつかなかった。

相撲がテーマといってもプロではなく、学生相撲の話だ。教立大学(!)の4年生・山本秋平(本木雅弘)は就職も決まってルンルンの日々。しかし、卒論指導教授で相撲部顧問の穴山(柄本明)から、「単位をやる代わりに1度だけ相撲の試合に出てくれ」と条件を出される。教立大学の相撲部はかつては名門だったが、今は入部希望者がいなくて廃部寸前。“3部リーグのビリッケツ"になっている。部員は4年生の時に相撲の魅力に取りつかれ、それ以来部をつぶさないために留年を続けている青木(竹中直人)ただひとりだ。

リーグ戦に出場するため秋平の弟・春雄(宝井誠明)と立派な体格の割に内気な田中(田口浩正)を勧誘して頭かずはそろえたが、初めて出場した大会は惨敗。その後も連戦連敗し、OBたちから「こんなやつらを試合に出すより殺した方がましだ」と罵られて、怒った秋平は「勝ちゃいいんだろ、今度は勝ってやるよ」と啖呵をきってしまう。1度だけ試合に出ることで終わるはずだった教授との約束を自分から反古にしてしまったのだ。英国人留学生のジョージ・スマイリー(ロバート・ホフマン)も引き入れ、目標を3ヵ月後のリーグ戦に決めて夏の合宿と猛練習が始まった。練習の成果は実り、リーグ戦でも勝ち続けるが…。

対戦相手の大学名が本日医科大学、応慶大学、衛防大学…。英国人でジョージ・スマイリーと言えば、ル・カレのスパイ小説に出てくる情報部員と同じ…。設定は非常に、ふざけており、笑いの連続で映画は進むが、どっこい中身は本物だ。落ちこぼれ軍団が苦労しながら、勝利を手にするというスポーツ・コメディ映画の王道を行く作りなのである。日本映画でこういうタイプの作品が成功した例は非常にまれである。スラップスティックのタッチとストーリー・テリングのうまさに感心してしまった。

それにしても部員たちの落ちこぼれぶりは度を越している。青木は緊張すると下痢をする体質、スマイリーは「人前でお尻を見せるのはいや」でまわしの下にタイツをはく。田中は気弱すぎて話にならない。春雄はやせっぽちで力がない。唯一まともな秋平にしても相撲の技術はゼロなのである。周防監督はそれぞれのキャラクターを明確に描き分け、ゼロからというよりマイナスからスタートした部員たちの奮闘を軽妙に綴っていく。周防監督のデビュー作でピンク映画の「変態家族兄貴の嫁さん」は今年ビデオになったが、いつも貸し出し中の札がかかる人気ぶり。だから、小津安二郎の「秋日和」にオマージュを捧げたといわれるこの映画を僕はまだ見ていない。だが、今回の映画を見て、「ファンシイダンス」を見た時以上にまず処女作を見てみなければ、と強く思った。

本木雅弘は軟派から硬派への転換をうまく演じて、今やすっかり映画俳優である。見せる演技でひたすらおかしい竹中直人と相撲部名誉マネジャー役の清水美砂も大変よろしい。親が見たら泣くような役柄を演じた新人の梅本律子にも工一ルを送っておこう。(1992年1月号)

【データ】1991年 1時間28分 大映=キャビン
監督・脚本:周防正行 製作:徳間康快 平明暘 撮影:栢野直樹 美術:部谷京子 音楽:周防義和
出演:本木雅弘 清水美砂 竹中直人 松田勝 田口浩正 ロバート・ホフマン 宝井誠明 梅本律子 柄本明

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