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シネマ1987online

眠らない街 新宿鮫

待望の滝田洋二郎監督の新作で、しかも大沢在昌「新宿鮫」が原作である。両方のファンとしては出来栄えが大変気になる作品だった。結論から言えば、見る前に抱いていた危惧は杷憂に終わり、面白い作品になっていた。警察官射殺犯人のアパートから新宿のライブハウスに至るクライマックスの呼吸がいいし、新宿の街も生き生きと描写されている。主人公の恋人でロックシンガーの晶を演じる田中美奈子も溌刺としていて、原作の晶より良かった(僕は小説の「新宿鮫」シリーズに晶というキャラクターはいらないのではないかと思う)。例のキスシーンばかりが話題になったけれど、銃製造のファーストシーンから印象的なラストのストップモーションまで見どころは多かった。

危惧していたのは真田広之が主役の鮫島のイメージに合わないのではと思っていたからだ。暴力や誘惑に屈せず、犯罪者から“新宿鮫”と恐れられるハードな刑事とさわやかで優しそうな真田広之とはなかなかイメージが結びつかない。しかし、真田広之はそれなりに鮫島のイメージを作り上げていた。原作とは少し異なるが、魅力的な鮫島を演じている。考えてみれば、原作の鮫島は36歳、真田広之は確か33歳だから年齢的には近いのだ。

荒井晴彦の脚本は原作をコンパクトにまとめて、必要なエピソードはすべて盛り込んである。ポケットベルに組み込んだ密造銃で中国人ヤクザが射殺される。たまたま現場にいた鮫島は凶器が特殊な銃であったことから、密造銃の天才でゲイの木津(奥田瑛二)が作ったものであると見抜く。木津は以前、鮫島が逮捕して刑務所に送ったが、既に出所していた。そのころ新宿署の警官2人が射殺される事件が起きる。これも木津が密造した銃を使ったらしかった。さらに2人の警官が同じ銃で殺され、新宿署には犯行をにおわせる電話が入る。こうした事件の縦糸にキャリア組の鮫島が防犯課の警部にとどまったままでいる理由、署の仲間からも毛嫌いされ、単独捜査をしなければならない境遇など、鮫島のキャラクターが説明され、晶との出会いが描かれる。

奥田瑛二が演じる木津は粘液質で出色のキャラクター。途中で姿を消すのは惜しいくらいで、これが最後まで残る悪役であってもよかったと思う。滝田洋二郎もこのキャラクターに力を込めて描いている。全体的にスピーディーな演出の中で、木津が鮫島を執拗に痛めつける場面は時間が止まったかのようだ。ただ、この場面にはあまり重要な意味はない。単なる主人公の危機を描いただけで、その後の展開には何ら関係しないし、主人公のキャラクターがこのことによって変わるわけでもない。晶と初めて結ばれる契機として、映画は導いていくが、ちょっと弱いなと思う。もっとも、原作でもこの場面の意味はあまり書き込まれていず、それがこの小説の弱さにもなっている。というのは主人公が死の恐怖に さらされる場面は、冒険小説などではかなり重要なのである。そこから生還する主人公を描くことが多くの冒険小説の主題であるからだ。映画の印象が意外に軽いのは、こうしたポイントとなる部分が弱いからにほかならない。

ともあれ、僕はこのスタッフ、キャストでシリーズ2作目にして最高傑作の「毒猿」も映画化してほしいと思う。台湾人の殺し屋毒猿とヤクザ20人との新宿御苑でのハードなアクションシーンをスクリーンで見てみたい。(1993年11月号)

【データ】1993年 1時間57分 製作:フジテレビジョン
監督:滝田洋二郎 製作:村上光一 原作:大沢在昌 脚本:荒井晴彦 撮影:浜田毅 美術:徳田博 音楽:梅林茂
出演:真田広之 田中美奈子 奥田瑛二 室田日出男 矢崎滋 今井雅之 松尾貴史 浅野忠信 新井康弘 塩見省三 中丸忠雄

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