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メッセンジャー

メッセンジャー

「波の数だけ抱きしめて」以来8年ぶりのホイチョイ・プロ作品。馬場康夫監督には恐らく期するところがあったのだろう。処女作「私をスキーに連れてって」を思わせる、さわやかな映画に仕上がった。ドラマの伏線をきちんと張った戸田山雅司の脚本もいいが、至る所に映画的な小技をちりばめた馬場監督の演出は見事。ラストの心憎いストップモーションまで一気に見せてくれる。映画の中で“レースクイーン上がりみたいなオバサン”と形容される映画初主演の飯島直子も機関銃のような早口と軽快な演技を見せ、快調そのものだ。彼女の魅力をこれほど引き出した作品は今までになく、代表作になったと思う。

冒頭の長いワンカットが監督の意気込みを宣言している。カメラは一人の女性を追いかけてビルの中に入る。中ではイタリアの有名ブランドのプレスを任されている清水尚美(飯島直子)が昼間からシャンペンを飲んでいる。尚美は安宅物産の専務岡野(別所哲也)の計らいでマンションも車も会社から支給され、優雅な生活を送っていた。しかし、その有名ブランドが倒産。会社からすべての資産を没収される。間の悪いことに、身ぐるみはがされたその日、自転車の男・横田(矢部浩之)と交通事故を起こし、示談の条件として仕事を手伝わされる羽目になる。横田は友人の鈴木(草なぎ剛)と2人だけで、小さなメッセンジャー(自転車便)TOKYO EXPRESSを営んでいた。鈴木はまったく無愛想な男。おまけに1日走り回って5000円にもならないハードな仕事に尚美はうんざりするが、徐々に仕事と鈴木に興味を持つようになる。

尚美が考えを一変させるきっかけとして描かれる横田と恋人の由美子(京野ことみ)のエピソードがいい。故郷の長野に帰るという由美子に渡して欲しいと、尚美は横田から封筒を預かる。しかし、尚美がバス停に着いたとき、バスは発車したところだった。「ま、しょうがないか」。尚美があきらめかけたとき、封筒から電話の呼び出し音が鳴り響く。何かのメッセージを伝えたいのに違いないと、尚美は必死でバスを追いかけるのだ。尚美から封筒を渡された由美子は、電話で横田と話し、最高の泣き笑いを見せてくれる。京野ことみ、うまい。尚美と観客を納得させるのに十分な演技と思う。

TOKYO EXPRESSは尚美と鈴木のほか、由美子と巡査を定年退職した島野(加山雄三)、バイク便を首になった服部(青木伸輔)も加わり、安宅物産の仕事も請け負って順調に伸びていくが、尚美にプレスの仕事に戻るよう誘いがかかる。さらに仕事を巡って、500人のスタッフを抱えるバイク便と配達の速さを競うことになる。

戸田山雅司の脚本はプロットで22稿、完全な形で25稿を費やしたそうだ。自転車便という着眼の良さもさることながら、伏線やアイデアがいっぱいつめこんである。笑って笑って、ちょっぴり感動させて、最後はハッピーな気分になれるエンターテインメントの王道を行く作り。「汗を流して働く仕事がいいんだよ」、という声高なメッセージではないが、根底にあるのはそんな視点であり、それを馬場康夫はさらりと軽いタッチで映画化した。洗練された傑作。必見。

【データ】1999年 東宝配給 1時間58分
監督:馬場康夫 脚本:戸田山雅司 主題歌:久保田利伸 撮影:長谷川元吉 音楽:本間勇輔
出演:飯島直子 草なぎ剛 京野ことみ 加山雄三 別所哲也 青木伸輔 矢部浩之

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