未来の想い出
ケン・グリムウッドの小説「リプレイ」に大変よく似たファンタシジーだ。と、言うよりも「リプレイ」の中心アイデアをいただいているのは間違いないと思う。藤子・F・不二雄の原作を確かめてはいないけれど、これと同じ話だったら、まずいのではないか。物語の展開は異なるが、少なくともヒントにはしており、映画のクレジットにはグリムウッドの名前を入れておいた方が良かっただろう。女優を美しく撮る森田芳光の作品らしく、清水美砂も工藤静香もきれいで(意外なことに工藤静香がとても良かった)、面白い映画になっているのだが、ストーリーの類似性だけが気になった。
グリムウッドの小説は43歳の男が心臓発作で死に、気が付いたら18歳の時代に帰っていた−というのが発端である。現在の自分の生活に満足していなかった主人公は今度こそ、違う人生を生きようとする。記憶は前のままだから、金儲けも思いのままだ。しかし、また同じ日の同じ時刻に主人公は死んでしまう。それから、壊れたテープレコーダーのように何度もリプレイが繰り返される。そのうち自分と同じ境遇にある女がいることも分かる。2人は同じ世界を何度も生きる。国の機関に利用されて世界が破滅に瀕したりもするが、それでも前と同じ日に2人は死んで、再びリプレイが繰り返される…。「自分の人生をやり直すことができたら…」という願いを徹底的に描いてこれは傑作小説となった。リブレイの理由もからくりも説明されないが、思索的ですらある。
「未来の思い出」は漫画家志望の納戸遊子(清水美砂)が出版社主催のゴルフコンペでホールインワンをした途端に心臓発作で死に、10年前の1981年に帰る。売れない漫画をかいてきた遊子は今度こそ売れる漫画家になろうと、自分の記憶(つまり未来の思い出だ)にあるヒットした漫画を先取りして発表し、名声を得る。リプレイしているのはもう一人いた。死ぬ直前のクリスマス・イブに出会った不幸な人妻・金江銀子(工藤静香)だ。銀子もまた、今の夫と出会わない違う人生を生きようとする。しかし、2人ともまた前と同じ日に死んでしまい、二度目の人生が繰り返されることになる。
「日本の漫画のストーリーは世界的レベルにある」(森田監督)などと言っている場合ではないのである。オリジナリティがなければ、どうしようもない。例えば、テレビドラマで映画のストーリーをパクることは珍しくないけれども、少なくとも映画に関しては気をつけなければならない。「エイリアン3」の作品評で触れた第1作と「宇宙船ビーグル号」との類似性で、ヴァン・ヴォートは訴訟を起こし、結局、映画会社は和解金を出したのである。あの程度のことでそうなのだからね。
「未来の想い出」は所々にかったるい部分があるにせよ、このストーリーの類似性さえなかったら、良い出来の映画だと思う。森田監督は映画的な技術を駆使して、魅力的な世界を作り上げている。イッセー尾形や唐沢寿明の使い方などは爆笑ものだ。俳優選びと選曲のセンスも相変わらずいい。清水美砂が良いのは「シコふんじゃった。」で分かっていたが、工藤静香の良さをこれほど引き出したのは初めてだろう。それだけにオリジナリティのなさが惜しいのである。(1992年10月号)
【データ】1992年 光和インターナショナル=藤子・F・不二雄プロ 1時間50分
監督・脚本:森田芳光 製作:鈴木光 原作:藤子・F・不二雄 撮影:前田米造 美術:今村力 岡村匡一 音楽:加古隆
出演:工藤静香 清水美砂 和泉元弥 デヴィッド・伊藤 橋爪功 唐沢寿明