許されざる者
便所に入っている小澤征悦を柳楽優弥が襲う。拳銃で仕留められず、もみ合いになる、腰に差していた短刀を振りかざし、突き刺そうと力を込める柳楽、それを精いっぱい押しとどめる小澤。短刀は少しずつ少しずつ小澤の胸に突き刺さっていき、小澤はついに絶命する。人を殺すということの重さと残酷さを痛烈に感じさせる場面だ。これはクライマックスの渡辺謙の殴り込みの場面でも繰り返される。爽快さとは無縁の暴力、殺戮。アクション映画でよくある場面を詳細にリアルに描けばこういうことになる。命は重いのだ。
クリント・イーストウッドの名作をリメイクしたこの映画、命の重たさを描いてイーストウッド版より深化している。深化したのはそれだけではない。女郎とアイヌという虐げられた者たちへの視点はより明確になっている。しかも不当な力で抑圧された者たちの無念の思いに共感をこめる一方で、顔を切り刻まれた女郎とその仲間が賞金首をかけるという行為や、切り刻んだ開拓民に善悪の二元論を単純に適用しているわけではない。人間は複雑だ。鷲路村を守る警察署長の佐藤浩市の強権的な行為は正当化されるのか、戦友の柄本明を佐藤浩市になぶり殺しにされた渡辺謙の行為は正当化されるのか。映画はどちらも肯定しない。
この映画のキャラクターの描き方は優れた小説がそうであるようにとても奥が深い。人間を書き割りのように分かりやすく単純化した映画が多い中、複雑な実相を浮かび上がらせている。もちろん、イーストウッド版にもこうした部分はあったのだけれど、李相日監督はそれを突き詰め、重厚なドラマを作り上げた。見事な翻案、素晴らしいリメイクだと思う。ただ単に西部を北海道に移し替えただけではない。イーストウッドが提示したテーマを考え抜いて深化させ、彫りの深い映画に仕上げているのだ。傑作だ。