雲のむこう、約束の場所
端的に言って傑作。「秒速5センチメートル」や「ほしのこえ」に感じた物語の未完成さが微塵もない。立派にSFしているところに好感。「ハウルの動く城」を抑えて2004年の毎日映画コンクールでアニメーション映画賞を受賞したのも当然か。
津軽海峡で分断された日本が舞台。北海道は「ユニオン」に占領され、「蝦夷」(えぞ)と名前を変えていた。ユニオンは蝦夷に天空高く聳え立つ謎の「塔」を建設しており、その存在はアメリカと「ユニオン」の間に軍事的緊張をもたらしていた。青森に住む中学3年生の藤沢浩紀(吉岡秀隆)と白川拓也(萩原聖人)は、海の向こうの「塔」にあこがれ、ヴェラシーラ(白い翼の意)と名づけた真っ白い飛行機を自力で組立て、いつか「塔」へ飛ぶことを夢見ていた。
2人は、同級生の沢渡佐由理(南里侑香)にヴェラシーラを見せ、いつか一緒に「塔」まで飛ぶことを約束する。しかし、佐由理は何の連絡も無いまま2人の前から姿を消す。ショックで2人は飛行機作りを止めてしまう。喪失感を埋め合わせるように浩紀は東京の高校へ進学し、拓也は地元の高校へ進学して勉学に打ち込むことになる。
3年後、「ユニオン」とアメリカの緊張は高まり、戦争が現実になりそうな気配の中、「塔」の秘密が明かになる。それは近接する平行宇宙との間で空間を交換し、世界を裏返して書き換えてしまう超兵器であった。
一方、佐由理の行方も明らかになる。彼女は中学三年の夏から三年間もの間、原因不明のまま眠りつづけており、東京の病院へ入院していたのだ。やがて「塔」と佐由理の関係が明らかになると、この事実を知った浩紀と拓也はヴェラシーラを塔まで飛ばす決意をする。宣戦布告後の戦闘のさなか、ヴェラシーラは津軽海峡を越えて北海道の「塔」へ飛ぶ。佐由理と世界を救うために。
最初の30分近くはいつもの新海誠の映画のタッチで中学生3人の交流が描かれる。ああ、またこういうパターンかい、と思って見ていたら、いきなりハードなSFの設定に移行した。この世界に住む科学者は平行世界の存在に気づいており、平行世界とこの世界で「砂粒程度」の空間の置換に成功している。塔はそれをより大きなレベルで実現する兵器だったのだ。世界は平行世界を夢見ている、という設定は大変魅力的だ。
少女を救うことが世界を救うという展開はいわゆる「セカイ系」といわれるパターンに属する。だからというわけではないが、ハードな設定が姿を現した時の驚きに比べると、その後の展開はまあ予測できる程度のものである。
しかし、いつもの新海誠の絵のタッチの良さにきちんとした物語が組み合わさっていることで、これは大変まとまりのある作品になった。新海誠だけで作ったわけではなく、他のスタッフがかかわったからこそ完成度の高い作品になったのだろう。新海誠自身は共同作業があまり好きではないのかもしれないが、このレベルの作品を生み出すには協力するスタッフが必要だ。こういう製作方法で新作を撮ってほしいと思う。