家族はつらいよ
「東京家族」(2013年)と同じキャストによる新作。話に関連はなく、家族構成とそのキャラクターのみ同じという姉妹編である。「男はつらいよ」シリーズ以来約20年ぶりに手掛けた山田洋次監督の喜劇という触れ込みだが、「東京家族」にも笑える場面は多かったし、今回特に喜劇を強調するほどのこともないと思う。画面の奥にいる人物、つまりその場のメインではない人物のギャグ(たいてい転ぶなど体の動きのギャグだ)が何度か繰り返されるが、本筋と絡まないギャグなのでその場のおかしさだけで終わっている。
残念なのは話も構成も緩いこと。三世代同居の平田家で夫の周造(橋爪功)が妻(吉行和子)に誕生日のプレゼントに何がいいか聞いたら、妻の答えは離婚届だった、というのが発端。夫に長年、尽くしてきた妻がなぜ、という思いで見ていると、その理由にがっかりすることになる。日本人の愛情表現に絡めた理由で、極めて常識的、極めて当たり前、極めてありきたりと言うべきか。
もちろん、山田洋次監督だから全然ダメな映画ではない。水準は十分にクリアしている。しかし、物足りないのだ。昨年末の「母と暮せば」にも物足りなさは感じた。あの切実で切ない黒木和雄監督の傑作「父と暮せば」の域には全然届いていなかった。
全盛期の山田洋次はこんなものじゃなかったぞ、という思いがある。山田洋次監督も既に84歳なので全盛期の作品と比べられないのは分かっている。例えば、黒澤明が83歳の時に撮った遺作の「まあだだよ」もそうだったのだ。分かっているのだけれど、山田洋次には期待してしまうのだ。