クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ
しんのすけたちが鬼ごっこに興じているうちに入った路地の奥に映画館「カスカベ座」がそびえているのをジャーンと見せてオープニングの粘土アニメに入る呼吸が良く、おお今回は期待できるかと思った。その期待はほぼかなえられ、面白い映画に仕上がった。惜しいのは前半の西部劇映画世界の時間が止まった描写で、長すぎてやや退屈。映画の世界に取り込まれた人々がしんのすけたちの呼びかけで我に返り、脱出へ動き始めると同時に映画も動き始め、クライマックスのつるべ打ちのアクションの痛快さにはひたすら拍手拍手である。昨年の「栄光のヤキニクロード」は普通のギャグアニメすぎてがっかりしたけれど、今回はとても面白かった。昨年から監督を務める水島努は十分に汚名を返上してお釣りが来る作品に仕上げている。
しんのすけたち5人の「かすかべ防衛隊」が無人で荒れ果てた「カスカベ座」に入ると、西部劇らしい荒い粒子の映画が上映されている(遠くに動く人影が見え、これは一瞬「リング」かと思った)。トイレに行ったしんのすけが劇場に帰ると、4人の姿がない。自分に黙って先に帰ったと思ったしんのすけは家に帰るが、4人が帰宅していないことを知らされる。両親と妹のひまわりとともにカスカベ座に戻ったしんのすけは気が付くと、西部劇の世界にいた。そこには名前とは裏腹に横暴な知事ジャスティスが支配している街があった。風間くんはなぜか保安官をしている。マサオくんとネネちゃんは夫婦になっている。ボーちゃんはインディアン。この世界、なぜか時間が止まっており、長くいると、だんだん元の世界の記憶をなくしてしまうらしい。しんのすけたちは何とかこの世界を抜け出してカスカベに帰ろうと、奮闘する。
異世界に入って、だんだん記憶をなくしてしまうという設定はまるで「ゼブラーマン」と同じ快感がある。そして本当の力を得るには元の世界での「かすかべ防衛隊」の合言葉が必要なのだった。
いつものようにギャグを散りばめて進むストーリー。今回は予告編にあったしんのすけの必殺技がズバリと決まる場面をちゃんと見せている(いつもの「クレしん」はギャグで構成した予告編と実際の本編とはまるで関係ないのだ)。しんのすけのほのかな恋心とか、風間クンが元の世界への不満をぽろりと漏らす本音とか、記憶を失ってしまうことの怖さとかを描きつつ、あくまでもしんのすけ一家を中心にして進む物語は、同じくそれを意図しながらも、原恵一監督の「オトナ帝国の逆襲」「アッパレ!戦国大合戦」に比べて失敗に終わった前作の捲土重来的な意味合いもあるのだろう。「クレしん」本来のタッチで感動さえ与える映画を作った水島努はえらいと思う。
【データ】2004年 1時間36分 配給:東宝
監督:水島努 チーフプロデューサー:茂木仁史 生田英隆 木村純一 プロデューサー:山川純市 和田泰 西口なおみ すぎやまあつお 原作:臼井儀人 脚本:水島努 絵コンテ:原恵一 水島努 作画監督:原勝徳 大森孝敏 針金屋英朗 間々田益男 音楽:荒川敏行 宮崎慎二 粘土アニメ:石田卓也
声の出演:矢島晶子 ならはしみき 藤原啓治 こおろぎさとみ 真柴摩利 林玉緒 一龍斎貞友 佐藤智恵 斎藤彩香 村松康雄 小林修 大塚周夫 内海賢二 小林清志 内村光良 さまぁ〜ず TIM ふかわりょう