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ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃

「ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃」

地球生態系の守護神だったガメラに対して、この映画に登場するバラゴン(婆羅護吽)、モスラ(最珠羅)、キングギドラ(魏怒羅)は大和の国土を守る護国三聖獣。スケール的に小さいし、ややもすれば国粋主義的と受け取られかねない。そういうところが脚本に伊藤和典が加わらなかった弱さなのだろう。伊藤和典が手を加えれば、SF的な設定にもっと説得力を増したと思う。しかし、ガメラシリーズを怪獣映画の決定版にした金子修介の演出はスピーディーで的確。怪獣のドラマと人間のドラマをうまく融合させ、平成ゴジラシリーズではもっとも怪獣映画らしい作品になった。怪獣が現れれば街が壊れ、人が死ぬ。そんな当たり前の描写が怪獣映画には大事なのである。第1作の設定に頼っていることで、第1作を超えることはできないのだが(平成ガメラのように第1作として描くことは、シリーズに伝統がありすぎるゴジラにはもはや無理だろう)、当然のことながら技術的には上回り、これはゴジラ映画の最高峰の位置を占めたと言える。水爆エネルギーで突然変異した生物に太平洋戦争の死者の怨念が宿ったという設定のゴジラは白目で凶暴、凶悪、最強。護国三聖獣をまったく相手にしない強さを見せつける。ゴジラと怪獣の戦いに意味がないというこれまでのシリーズの最大の欠点を克服しただけでもこの映画には価値がある。

昭和29年のゴジラ初上陸から50年後の設定だから時代は2004年(「前世紀末にアメリカにゴジラに酷似した生物が上陸したが、専門家の間ではゴジラではないとされている」というセリフがおかしい)。ゴジラは再び日本に、小笠原諸島の孫の手島に上陸する。迎え撃つのは50年前にゴジラを撃退したのが唯一の実戦経験になっている国防軍(撃退したのは国防軍ではなかったことが後で分かる)。そのころ、国内ではさまざまな場所で怪獣出現の兆候が現れていた。妙高山でバラゴン、鹿児島の池田湖でモスラ、富士の樹海からギドラが出現する。それは「護国聖獣傳奇」にある記述と一致した。弱小BSテレビ局のレポーター立花由里(新山千春)は怪獣たちの動きを追う。由里の父親で国防軍准将の立花泰三(宇崎竜童)は50年前、ゴジラに両親を殺された恨みを胸にゴジラ撃退の指揮を務める。

前半、三聖獣の登場のさせ方などはオーソドックスな怪獣映画の定石を踏まえたものだし、特にバラゴンとゴジラの戦いは見応えがある。ゴジラの吐く光線によって街が壊れ、キノコ雲が上がるシーンはゴジラの本質を突いて秀逸だ。光線を吐く際に周囲の空気が変化するのも細かい気配り。ただし後半の横浜でのモスラ、キングギドラとの戦いは良くできているとはいっても従来の怪獣プロレスの域を出ていないもので、いかにも両手を入れているというのが見え見えのギドラの造型は大いに不満。SFXも一部リアリティーを欠くものがある。しかし、怪獣映画の本質は実はSFXにあるのではない。要は非現実的な物語にリアリティーを与える説得力なのである。SFXがチャチであっても、僕らは過去のゴジラ映画で胸をときめかせ、興奮したものだ。これは、いかに製作者が怪獣映画の可能性を信じているかにかかってくることなのだと思う。その意味で怪獣映画ファンでもある金子修介は監督として適役なのだろう。宇崎竜童、新山千春をはじめゲスト出演の俳優まで人間側のドラマや描写は納得の行くもので、怪獣映画のリアリティーを支えるのはしっかりした人間ドラマであることを思い起こさせてくれる映画でもある。

だからこそ、脚本はもう少し練った方が良かった。護国三聖獣の設定が後半に生かされないし、単に設定だけで終わった印象がある。このあたり、最後まで少女の恨みを引きずった「ガメラ3 邪神覚醒」と比較してみれば一目瞭然だろう。あの程度の力では国を守る三聖獣の名が廃る。恨みを持った人間に決着を付けさせるというのはエモーションの持続からいっても分かるのだが、それに三聖獣を絡める工夫が必要だったのだと思う。そうした脚本の不備を補っているのが大谷幸の音楽だ。平成ガメラに続いて素晴らしく格調高いスコアを提供しており、この音楽がなかったら映画の魅力は半減しただろう。

この映画は十分合格点ではあるが、半世紀近く前に生まれた怪獣とその仲間を再利用しているだけでは決定的に面白い映画を作ることは難しいのではないかと思う。ゴジラもキングギドラもモスラもよく言えば過去の遺産、悪く言えば使い古しである。ガメラとゴジラという2大怪獣を映画化し、現在の怪獣映画監督のリーダーになった観がある金子修介に今後望みたいのは、全く新しい怪獣が出現する映画の製作。一から設定を作り出し、ゴジラ第1作のようなインパクトのある映画を作って欲しいものである。オリジナルを作った人がやはり一番強いのだから。

【データ】2001年 1時間45分 配給:東宝
監督:金子修介 製作:富山省吾 プロデューサー:本間英行 脚本:長谷川圭一 横谷昌宏 金子修介 撮影:岸本正広 美術:清水剛 音楽:大谷幸 [特殊技術]特殊技術:神谷誠 造型:品田冬樹 撮影:村川聡 視覚効果プロデュース:小川利弘 VFXスーパーバイザー:松本肇
出演:新山千春 宇崎竜童 小林正寛 佐野史郎 仁科貴 南果歩 大和田伸也 村井国夫 渡辺裕之 葛山信悟 中原丈雄 布川敏和 津川雅彦 天本英世

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