It's Only a Movie, But …

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GO

「GO」

「これは僕の恋愛に関する物語だ」。映画はそんな言葉で幕を開け、在日韓国人・クルパーこと杉原(窪塚洋介)の日常と恋愛を描いて2時間2分を駆け抜ける。行定勲監督は重いテーマに笑いとアクションを織り交ぜ、エネルギッシュな演出で一級の青春映画に仕上げた。主演の窪塚洋介も好演しているが、山崎努や大竹しのぶら脇を固める役者陣と金城一紀の直木賞受賞作を元にした宮藤官九郎の脚本が賞賛に値する出来。背景には重いものがあるのだが、それを背景以上の描写にせず、しかもリアルに描きだしているところに好感が持てる。物語を主人公と桜井(柴咲コウ)のラブストーリーとして収斂させていく判断は賢明で、「GO」はまず青春映画として出来が良く、難しい題材を軽やかに描き出したことに成功の要因がある。荒削りな部分も散見されるが、気持ちよく見られるエンタテインメントになっている。

「これは僕の恋愛に関する物語だ」。映画はそんな言葉で幕を開け、在日韓国人・クルパーこと杉原(窪塚洋介)の日常と恋愛を描いて2時間2分を駆け抜ける。行定勲監督は重いテーマに笑いとアクションを織り交ぜ、エネルギッシュな演出で一級の青春映画に仕上げた。主演の窪塚洋介も好演しているが、山崎努や大竹しのぶら脇を固める役者陣と金城一紀の直木賞受賞作を元にした宮藤官九郎の脚本が賞賛に値する出来。背景には重いものがあるのだが、それを背景以上の描写にせず、しかもリアルに描きだしているところに好感が持てる。物語を主人公と桜井(柴咲コウ)のラブストーリーとして収斂させていく判断は賢明で、「GO」はまず青春映画として出来が良く、難しい題材を軽やかに描き出したことに成功の要因がある。荒削りな部分も散見されるが、気持ちよく見られるエンタテインメントになっている。

映画は主人公が通う民族学校でのさまざまなエピソードと普通の日本人の高校へ行った後の桜井との出会い、在日であることの告白などを描いていく。2人の出会いから付き合いが始まる部分があっさりしているなと思ったら、これは最後になってその理由が分かる仕掛け。光るのは主人公の父親(山崎努)の滅茶苦茶強い腕力と、それをいいように操る母親(大竹しのぶ)の存在感の大きさ。山崎努は元ボクシング・ランキング7位という設定を信じ込ませるだけのファイティングポーズを難なく決め、大竹しのぶは「親に養ってもらっているうちは甘いんだよ」などと言い放つ中年女の図太さをユーモアたっぷりにリアルに演じている。父親がハワイに行きたかったために朝鮮国籍を韓国籍に変えたというエピソードは軽くておかしいのだが、これも後になって理由があることを主人公は知る。「広い世界を見て自分の将来を決めろ」という父親に主人公は最後まで腕力的にも精神的にも勝てないが、単純に勝てるような両親ではないのである。この2人の役者、本当にうまい。

桜井役の柴咲コウは「バトル・ロワイアル」とは正反対の役ながら、新たな魅力を発散している。初めて入ったホテルで杉原から在日の告白を受け、桜井はためらう。桜井のオープンな感じの父親が実は韓国・朝鮮、中国人に対して差別意識(「血が汚い」)を持っており、その影響で桜井自身もいつの間にか差別意識をはぐくまれていることが明らかになるのだ。「杉原が私の中に入ってくるのが怖い。そうでなくても初めてで、怖かったんだよ」と言う場面は切ないだけでなく、差別の根幹がちらりとうかがえる重い場面だ。2人で寝転がって流れ星を見てしまう場面と、仲直りした時にタイミングよく雪がちらついてくる場面で、どちらも桜井は「あまりにできすぎていて、恥ずかしい」という反応をする。これは大まじめに差別を取り上げることを避けたこの映画の姿勢と同じものだろう。避けたという表現は適切ではないかもしれない。正面からこぶしを振り上げて差別問題を描き、映画が重くなってしまうことを避けたのである。エンタテインメントの中にそういう部分を自然に入れることは難しいのだが、この映画はうまく演出していると思う。だからラスト近くで主人公が桜井に対して大声を振り絞る場面はあまり似合わない。

唯一の不満は桜井の心境の変化が十分に描かれないこと。ホテルで別れた後、なぜ仲直りする気になったのかよく分からない(元々はそういう場面もあったらしいが、編集段階で切ったそうだ)。そこにもっと描写を割けば、映画はもっと充実度を増したと思う。冒頭のスーパー・グレート・チキン・レースの場面から行定勲の演出は疾走感にあふれる。ひ弱な警官の萩原聖人やタクシー運転手・大杉漣のおかしな演技、山本太郎の「バトル・ロワイアル」を彷彿させる演技を引き出しただけでも功績だろう。全体に映画製作への熱意が感じられて好ましい。

【データ】2001年 2時間2分 配給:東映
監督:行定勲 製作:佐藤雅夫 黒沢満 原作:金城一紀「GO」(講談社刊) 脚本:宮藤官九郎 撮影:柳島克己 美術:和田洋 音楽:めいな.co(熊谷陽子 浦山秀彦) 主題歌:The Kaleidoscope「幸せのありか theme of GO」
出演:窪塚洋介 柴咲コウ 山本太郎 新井浩文 村田克 細山田隆人 山崎努 大竹しのぶ 萩原聖人 大杉漣 平田満 上田耕一 塩見三省 水川あさみ 伴杏里 高木リナ キム・ミン ミョン・ケナム

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