クロスファイア
クライマックス、タンクローリーの爆発の炎を消し止めるため、空を見上げる主人公青木淳子(矢田亜希子)の視点から、グイグイすごいスピードで上空にさかのぼるカメラの動きを見て、「ああ、ガメラ」だと改めて思った。この映画、炎のタイトルから「ガメラ」を思わせる作りだが、クライマックスの主人公の死闘もまた「ガメラ」そのものなのだった。荒っぽさは残るものの、これは平成ガメラ3部作でスペクタクルなエンタテインメントを極めた金子修介監督の実力を示した映画と言える。特に感心したのは脚本で、宮部みゆき原作の中編「燔祭」とその続編である長編「クロスファイア」を再構成し、原作では壊れた青木淳子と多田一樹のロマンスに重点を置いて、情感豊かな物語にしている。「クロスファイア」というタイトルではあるけれど、映画の半分ぐらいは「燔祭」のエピソード。“装填された銃”として凶悪犯の制裁を続ける原作「クロスファイア」の主人公とは異なり、映画では個人的な復讐の意味も含めて主人公はパイロキネシス(念力発火能力)を使う。これで主人公に対する共感が生まれた。原作に感じたさまざまな不満を払拭させる出来栄えであり、超能力者を主人公にしたSF映画の中でも特筆に値する出来と思う。
主人公の青木淳子はパイロキネシスの被害が他人に及ぶのを恐れ、幼いころから人と深くつき合うのを避けて生きてきた。同じ会社に勤める多田一樹(伊藤英明)と出会い、その妹雪江とも親しくなるが、雪江は一連の女子高生連続殺人グループに惨殺される。警視庁寺町東署の刑事石津ちか子(桃井かおり)と牧原康明(原田龍二)は首謀者の小暮昌樹(徳山秀典)を取り調べるが、逆に小暮は捜査の横暴を告発、逮捕を免れる。小暮のグループはその後も犯行を続け、思い詰めた一樹は小暮の殺害を図る。淳子は直前でそれを止め、自分の能力を打ち明け、自分の手で殺害することをもちかける。そんな時、他人を支配する能力を持つ木戸浩一(吉沢悠)が淳子に接近。法で裁けない凶悪犯を制裁する組織ガーディアンの存在を明かす。さらに淳子と同じパイロキネシスを持つ少女倉田かおり(長沢まさみ)も淳子の元を訪れる。映画は小暮を追う淳子とガーディアン、かおりを巻き込んで怒濤のクライマックスへと突き進む。
こうやってストーリーを書いてみると、この映画、1時間55分のわりにはかなりのエピソードを詰め込んでいる。このため謎の組織ガーディアンの描写などは単純化しすぎたきらいがないでもない。ただ、金子修介の演出はそんな傷を吹き飛ばすほど大衆性を持ち合わせている。淳子とかおりのパイロキネシスのぶつかり合いから、メリーゴーラウンドの爆発炎上、タンクローリーの爆発と続くクライマックスの遊園地での死闘は映画のオリジナルで、エンタテインメントに徹した金子監督の本領を発揮した見応えのある場面である。原作の暗い悲劇性は淳子と一樹のロマンスを強調することにより、悲劇的な結末でありながらも温もりのある物語に転化している。
矢田亜希子をはじめとする若い出演者たちは総じて好演。桃井かおりがユーモラスなオバサン役に徹して映画を引き締めた。大谷幸の音楽はいつものように素晴らしく、樋口真嗣ではなかったので不安を感じていたSFXもまず合格点だろう。中山忍、藤谷文子、蛍雪次朗らガメラレギュラー陣のゲスト出演も楽しかった。
【データ】2000年 1時間55分 東宝・TBS提携作品 配給:東宝
監督:金子修介 原作:宮部みゆき「燔祭」(「鳩笛草」所収)「クロスファイア」 脚本:金子修介 山田耕大 横谷昌宏 音楽:大谷幸 主題歌「The One Thing」Every Little Thing 製作:柴田徹 原田俊明 撮影:高間賢治 美術:三池敏夫 視覚効果:小川利弘 ビジュアルエフェクトスーパーバイザー:松本肇 岸本義幸 杉木信章
出演:矢田亜希子 伊藤英明 原田龍二 長澤まさみ 吉沢悠 徳山秀典 永島敏行 桃井かおり 中山忍 藤谷文子 蛍雪次朗 石橋蓮司 本田博太郎 小松みゆき