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シネマ1987online

五条霊戦記

「五条霊戦記」

傑作になりうる題材だった。クールな遮那王(浅野忠信)とがむしゃらな弁慶(隆大介)の対決に加え、遮那王を狙う平家、弁慶に遺恨を持つ湛塊(舟木誠勝)が入り乱れて、アクションが展開されるのに、肝心のアクション(殺陣)の描写が弱すぎる。これは単に技術的な問題で、殺陣そのものではなく見せ方(撮り方)がなっていないのである。手持ちカメラで画面をがたがた動かしては見にくいだけである。暗く陰気なトーンやメリハリのない演出など至る所に不備な点はあるが、一番大きな弱点はこのアクションにあると思う。伝奇時代劇、あるいは“剣と魔法”の映画としての魅力を最優先に成立させるべきだったのだ。アクションを主眼に置いていない大島渚「どら平太」に比べても、この映画の殺陣の弱さははっきりするだろう。石井聰亙、もっと頑張って欲しい。

平安時代末期、平家は源氏に勝ち、世を支配したが、京の町では夜な夜な平家武者が襲われ、鬼の仕業と恐れられていた、というのが発端。鬼の正体は源氏の生き残りで後の源義経である遮那王で、源氏の再興を目指し、殺戮を繰り返していたのだ。その頃、武蔵坊弁慶は夢の中で不動明王から「鬼を斬って光明を得よ」とお告げを受けた。弁慶はかつて女子どもさえ殺す悪党だったが、高僧の阿闍梨(勅使河原三郎)に命を助けられて心を入れ替え、仏の道を歩んでいる。阿闍梨は「斬ることで光明は得られない」と止めるが、弁慶は耳を貸さず京へ向かう。これにかつての宿敵湛塊の一味と平家の軍団が絡み、4つどもえの争いを展開する。

弁慶が刀鍛冶の鉄吉(永瀬正敏)とともに、遮那王が潜む逢魔ケ森に入る場面が霊戦記の“霊”を象徴する場面となる。遮那王と弁慶の気の対決なのだが、ここにはSFXはまったく使われず、雰囲気のみ。これがちょっと残念。気を表現する効果は何か出来なかったのかと思う。SFXと言わずとも、もっとおどろおどろしい雰囲気が欲しかった。また、安時代末期を忠実に再現したためか、セット、衣装とも極めて薄汚い。京の町というよりどこかの山奥の村である。リアルもいいが、こういうアクションの場合、スタイリッシュさも欲しいところだ。

弁慶と遮那王の設定など史実を超えていく物語の展開は極めて魅力的なのである。なのに出来上がった映画からはその魅力が欠落している。映画を製作する上で細かい部分に計算違いがあったのではないか。2時間17分の上映時間も長すぎる。ただし出演者は頑張っている。弁慶役の隆大介、遮那王役の浅野忠信とも好演。それ以上に格闘家の舟木誠勝と舞踏家の勅使河原三郎の雰囲気のある演技に感心した。この2人は演技者としても十分やっていけるだろう。物語を見届ける役柄の永瀬正敏にはもう少し息抜き的な軽さが欲しかったが、これは演出上の問題で本人に非はない。

【データ】2000年 2時間17分 製作:サンセントシネマワークス WOWOW 配給:東宝
監督:石井聰亙 プロデューサー:仙頭武則 脚本:石井聰亙 中島吾郎 原案:石井聰亙 大崎裕伸 諏訪敦彦 撮影:渡部眞 美術:磯見俊裕 音楽:小野川浩幸 衣装:二宮義夫 殺陣:中瀬博文 ビジュアルエフェクトスーパーバイザー:古賀信明
出演:隆大介 浅野忠信 永瀬正敏 岸部一徳 國村隼 勅使河原三郎 光石研 舟木誠勝 城明男 鄭義信 成田浬 細山田隆人 栗田麗 美加理 内藤武敏 高橋隆大 浅田修生 張春祥

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