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シネマ1987online

機動戦士ガンダム 逆襲のシャア

これは正しく戦争アニメである。この悲壮感、この死者の多さ。ヘタをすると、あの胸クソの悪くなる「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」になるところだった。それを危ういところでクリアしているのは、ひとえにニュータイプという、テレビシリーズ第1部以来のテーマを備えているからにほかならない。ここで繰り広げられるシャアとアムロの確執は、筋1部の中でも際立って傑作だった「光る宇宙」のエピソードを踏襲している。「Zガンダム」も「ガンダムZZ」も関係ない。この映画は第1部に直接つながる続編としてのみ見るべきだろう。ガンダムシリーズのテーマは「光る宇宙」に凝縮されていたのだから、これは当然のことである。

「光る宇宙」で描かれるのは、アムロとララァの宿命的な出会いと別れである。卓越したニュータイプである二人は、戦場で出会ったがために戦わなければならない。そしてお互いのニュータイプとしての能力を認めあったときに悟る。人間は変わっていくのだ、と。ニュータイプは人類の革新であり、それは宇宙に進出した人類から生まれた。戦闘能力だけでなく、人類の新たな飛躍の一歩となる能力を兼ね備えたタイプなのである。しかし、アムロはシャアをかばったララァを誤って殺してしまう。

「逆襲のシャア」でもこの場面は回想シーンで登場する。時代は10数年後だが、シャアもアムロもいまだにララァにこだわっている。シャアはネオ・ジオン軍の総帥となっており、地球人を根絶やしにするため隕石落とし作戦を始める。かつての宇宙要塞アクシズ(これは「Zガンダム」で反連邦軍ティターンズの本拠だった)を手に入れ、地球に落とそうとする。その阻止を図るアムロと新たなニュータイプたちのドラマが戦闘の中で描かれていく。シャアの野望はニュータイプだけの世界を作ることにある。地球人は地球を汚染するだけの存在でしかなく、人数の進化にとって有害なのである。

コンピュータ・グラフィックを用いたいたスペース・コロニーとか画面のスピード感などは、漫画映画と呼んだ方がふさわしかった第1部に比べれば、格段の進歩である。たしかに見物ではあるのだが、テーマの深化は一切ない。ここにあるさまざまなシーンは「Z」「ZZ」で主人公のカミーユ・ビダン、ジュドー・アーシタを通じて1度似たような形で見たことがある。ファンとしてはそこが物足りない。ラストに現れる、地球を取り巻くオーロラは、ある種の希望を暗示しているのかもしれない。しかし、それは同じ富野由悠季監督の「伝説巨神イデオン」の壮大なラストには到底及ばない。無限エネルギー・イデの発動によって宇宙の半分が噴き飛び、登場人物たちがすべて死ぬ。その魂がある惑星の海に入り、新たな生命力がまれるという輪廻転生の暗示。そうしたSF的なセンス・オブ・ワンダーが、「逆襲のシャア」には感じられなかった。テレビシリーズには豊富にあったキャラクター描写も不足している。戦闘シーンだけが目立ってはつまらない。総体的に見れば決して悪い出来ではないが、そんな不満が残った。

富野由悠季はアニメ作家としては一流だと僕は思っている。捲土重来を果たしてほしいものだ。(1988年4月号)

【データ】1988年 2時間 サンライズ 監督・原作・脚本:富野由悠季 キャラクターデザイン・作画監督:北爪宏幸 作画監督:稲野義信 南伸一郎 山田きさらか 大森英敏 小田川幹雄 仙波隆網 音楽:三枝成章
声の出演:古谷徹 池田秀一 鈴置洋孝 榊原良子 白石冬美 川村万梨阿 弥生みつき 佐々木望 山寺宏一 伊倉一恵

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