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シネマ1987online

ハウルの動く城

「ハウルの動く城」パンフレット

一筋縄ではいかない作りである。呪いによって90歳のおばあさんに変えられた少女ソフィーがハウルとその仲間たちと擬似的な家族を築いていく、という表面的な物語自体は簡単なだけに、宮崎駿が込めたテーマが見えにくくなっている。終盤の展開を見れば、宮崎駿が「ハートを取り戻せ」「人間らしく生きろ」と言っているのは明確なのだが、原因と結果の描写を微妙にずらしている(あるいは単純な因果関係にない)ので解釈しにくいのである。これを子どもと一緒に見た親は子どもから「なぜ」を連発されることになるだろう。しかし、そうした描写の仕方によってこれは奥行きの深い物語になった。単純な比喩による一意的な解釈を許さない物語というのは確かにあって、そういう作品は時代によって受け取られ方が異なるものだが、イラク戦争が泥沼化した今の状況を考えれば、これは反戦が大きなテーマと受け取っていいだろう。今さら言うまでもなく、宮崎駿は硬派な人なのである。その意味でこれは「未来少年コナン」「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」という初期作品の延長線上にある作品と言える。

人の心臓を食べると言われるハウルという魔法使いに街で偶然会った18歳のソフィーが荒れ地の魔女に呪いをかけられ、90歳のおばあさんになる。このままでは家にいられない。家を出たソフィーは荒れ地で、かかしのカブを助けた後、ハウルの動く城にたどりつき、掃除係として一緒に暮らし始める。ハウルの城にはハウルと契約を結んで暖炉に縛り付けられている火の悪魔カルシファーと弟子のマルクルという少年が住んでいる。ハウルは夜になると、どこかへ出かけていく。この4人プラス魔力を失った荒れ地の魔女が次第に家族みたいになっていくと同時にソフィーはハウルに惹かれるようになるというのがメインプロット。併せてこの国で起きている戦争の描写もインサートされる。国王のそばにはハウルの師匠に当たる魔法使いのサリマンがいて、ハウルを戦争に協力させようとしている。このサリマンが一般的に言えば、悪役になるのだが、ここでも宮崎駿は一意的な描き方はしていない。敵を倒して終わらせる物語ではないのである。

呪いをかける方法は知っていても解く方法を知らないとか、カルシファーの「火薬の炎は嫌いだ。あいつらは作法を知らない」というセリフとか、ハウルが戦争で魔法を使いすぎて魔物になっていく描写(これはフォースのダークサイドに落ちるイメージを思い起こさせる)とか、戦争や愚かな人間を暗示した描写は至る所にある。終盤、ハウルが心臓を取り戻すシーンから一気に戦争の終息を示す描写など見ると、心臓=ハート=人間性を取り戻せば、争いごとはなくなるという主張がくっきりと浮き上がってくる。

心臓を取り戻したハウルは「体が重くなった」と言う。それに対してソフィーは「心は重いものなのよ」と答える。目に見える敵ではなく、自分の心の中にいる敵。人間の心次第で状況は悪化もすれば、好転もする。映画に戦争はあってもその具体的な理由や戦場の悲惨さはない。戦争を悪いこととして抽象化することで、映画は分かりにくくなっているし、大衆性も伴ってはいないけれど、それによって右翼左翼や宗教上のイデオロギーから独立した普遍的な作品になり得ていると思う。

【データ】2004年 1時間59分 配給:東宝
監督:宮崎駿 プロデューサー:鈴木敏夫 原作:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 脚本:宮崎駿 作画監督:山下明彦 稲村武志 高坂希太郎 美術監督:竹重洋二 吉田昇 音楽:久石譲 制作:スタジオジブリ
声の出演:倍賞千恵子 木村拓哉 三輪明宏 我修院達也 神木隆之介 伊崎充則 大泉洋 大塚明夫 原田大二郎 加藤治子

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