It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

BROTHER

「BROTHER」

日英合作で撮影はハリウッド。銃の迫力は増しているけれど、印象はこれまでの北野武の映画と変わらない。描写の冷たさ、本筋とはあまり関係のない笑いを誘うショット。主人公は声を荒げることはあっても、何を考えているか分からない不気味なヤクザで、アメリカでギャングを相手にのし上がっていく様子が淡々と描かれる。それでも初期の作品より映画としての完成度は上がっている。いや、海外の映画祭で受賞した経験もある監督にこんなことを言うのは不遜だけれど、北野武映画にはどこか未完成なところがつきまとっていた。今回、それがあまりない。北野武の本質はこのパンフレットの写真のように鋭利な冷たさにあると思う。ユーモラスなショットを入れることで、それが隠され、人当たりがよくなった感じを受ける。これは北野武流の韜晦趣味とも言えるのではないか。主人公に設定された性格とユーモアとは本来結びつかないのだが、それによって描写の不快さを回避しているきらいがあるのである。

主人公のヤクザ山本(ビートたけし)は寡黙な男である。組の親分(奥村公延)が殺され、兄弟分(大杉漣)が相手の組に寝返る。日本に居場所をなくした山本は弟ケン(真木蔵人)のいるロサンゼルスへ単身渡る。ケンは黒人らと組んで麻薬の売人をやっていたが、組織の男といざこざを起こし、見かねた山本がその男を殺してしまう。こうなったら、どうしようもない。その組織の幹部連中を皆殺しにし、山本のグループは次第に勢力を広げていく。日本人街を取り仕切っていた白瀬(加藤雅也)の組織も配下に収めるが、やがてマフィアの怒りを買い、山本のグループは一人また一人と殺されていく。

そんなに順調に話が進むわけないと思っていたが、その通りの展開になる。物事への醒めた見方は北野武の映画に一貫しているものである。指を詰めたり、銃で突然撃ち殺したりの過激な暴力描写と、こうした醒めた見方があるため、映画の印象は極めて冷たいものになる。ほとんど内面描写を行わないのもそれに拍車をかけている。描かれるのは主人公の行動のみ。北野武は主人公が心情を打ち明けたり、思い悩む場面など映画には不要と考えているようだ。これはハードボイルドの手法に近い。

テレビの饒舌なたけしとは正反対にその映画の主人公はいつも寡黙だ。北野武の本質はこの寡黙の方にあり、饒舌はそれを隠す手段なのではないかと思う。映画の場合、饒舌の役を担っているのがユーモラスな場面に当たるのだろう。今回、ただ一人生き残るデニー(オマー・エプス)や山本の弟分の加藤(寺島進)、熱血ヤクザの加藤雅也、真木蔵人が、醒めた主人公とは裏腹に血の通った演技を見せており、映画の完成度が上がった印象なのはこうした脇役の演技が良かったからかもしれない。やや出しゃばった場面もある久石譲の音楽も映画に豊かさを提供している。

【データ】2001年 日本=イギリス 2時間4分
監督・脚本・編集:北野武 音楽:久石譲 プロデューサー:森昌行 ジェレミー・トーマス 撮影:柳島克己 美術:磯田典宏 衣装:山本耀司
出演:ビートたけし オマー・エプス 真木蔵人 加藤雅也 寺島進 ロイヤル・ワトキンズ ロンバルト・ボイヤー 大杉漣 石橋凌 ジェームズ・シゲタ タティアナ・M・アリ 渡哲也

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