It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

陽はまた昇る

「陽はまた昇る」パンフレット

ビクターの横浜工場ビデオ事業部がVHSを開発し、発売にこぎつけるまでの苦闘を実話に基づいて描く。NHKの「プロジェクトX」でも描かれたそうで、実際、予告編では中島みゆきの主題歌(「地上の星」)が流された(本編にはない)。この番組、あまり見ていないが、映画が大仰に感動の押し売りになっていたら嫌だなと気構えて見た。監督デビューの佐々部清はそういう危惧を払拭するように手堅く真摯にまとめている。西田敏行がいつものような熱演タイプの演技であるとか、主人公の家族の描写に時間を割いている割にはあまり効果を挙げていないとか、デビュー作につきまとうさまざまな瑕疵はあるにせよ、一本筋の通った映画に仕上がっており、上々の出来と言える。佐々部清は崔洋一、和泉聖治、杉田成道、降旗康男らの助監督を10年務めたそうだ。助監督からたたき上げの監督、つまり技術をしっかりたたき込まれた監督が技術者の映画を撮るというのも実にぴったりである。この題材をデビュー作に選んだ監督の思いが伝わる作品になっている。

主人公の加賀谷静男(西田敏行)は日本ビクターの開発技師。あと数年で定年を迎えるところで、横浜工場のビデオ事業部長の辞令が下る。高卒の加賀谷が事業部長となるのは異例だったが、実は業務用ビデオを生産する横浜工場はビクターのお荷物的存在。体のいい左遷だった。不況にあえぐビクターは全部門に2年間で20%の人員削減を命じる。横浜工場の人員は241人。加賀谷には50人近い人員のリストラを課せられたことになる。しかし加賀谷は「1人の首も切りたくない」と営業に力を入れ、家庭用VTRの開発で人員を守ろうとする。

そんな努力も虚しく、SONYが一足先にベータマックスを発表してしまう。ベータマックスの録画時間は1時間。加賀谷たちは野球や映画の録画には2時間の録画時間が必要と考え、残業を重ねて、可能な試作機のVHS(Video Home System)を完成させた。通産省はVTRの規格が乱立することを恐れ、家電業界に統一を促す(國村隼が憎々しい通産官僚を好演)。業界はベータマックスの導入に傾き、ビクター上層部もベータを選択しようとする。ここでビクターがベータを選べば、工場のスタッフの努力が水の泡になる。加賀谷は互換性の重要さを第一に考え、世界規格を目指してVHSの技術を公開。親会社の松下電器をVHS陣営に引き入れるため、松下幸之助(仲代達矢)に直訴し、VHSの優秀さを訴える。

映画の中に時代を示すテロップは出てこないが、1973年から76年までを描いているそうだ。リストラされるサラリーマンの悲哀は現在にそのまま通じるものだし、目頭を熱くさせる描写がところどころにある。部下を救うために必死の努力を重ねる西田敏行の姿もいいが、それを補佐する次長の渡辺謙や下請け工場の社長を演じる井川比佐志、加賀谷たちの努力をくんでVHSの発売を決めるビクター社長夏八木勲らが好演している。特に渡辺謙が西田敏行とともに大阪に向かう車の中で見せる演技はそれまでの伏し目がちな控えめさとは対照的にうまい。こういう普通の感動作が日本映画にはもっと必要だろう。いや感動作でなくとも、奇をてらうことなく普通のしっかりした映画を作れば、観客はもっと邦画に足を向ける。オーソドックスなものは強いのである。

【データ】2002年 1時間48分 配給:東映
監督:佐々部清 製作:高岩淡 原作:佐藤正明「映像メディアの世紀 ビデオ・男たちの産業史」 脚本:西岡琢也 佐々部清 撮影:木村大作 音楽:大島ミチル 美術:福沢勝広 新田隆之 
出演:西田敏行 渡辺謙 緒形直人 真野響子 篠原涼子 中村育二 田山涼成 蟹江一平 樹音 江守徹 倍賞美津子 國村隼 津嘉山正種 石橋蓮司 井川比佐志 夏八木勲 仲代達矢 

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