It's Only a Movie, But …

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ピンポン

「ピンポン」パンフレット

松本大洋の原作漫画を「タイタニック」のVFXにも関わったという新人の曽利文彦監督が映画化。期待値よりはやや低かったが、良い出来だと思う。主演の窪塚洋介をはじめ、中村獅童、ARATA、サム・リー、大倉孝二、夏木マリ、竹中直人らいずれもキャラクターが立っている。主人公の挫折と再起を描くスポ根ものとして先が読める展開なのだが、それでも面白く見られるのはキャラクターが際だっているからだろう。努力しても努力しても凡人は天才には負けるという厳しい現実と、天才ですらもただ才能だけでは一等賞にはなれないという当たり前の真実をさわやかに描いて大変気持ちがよい。VFXが効果的に物語を語るためのものとして使われ、メインになっていないのも懸命な在り方で、曽利監督、上々のデビュー作だと思う。

ペコ(窪塚洋介)の天才ぶりをもっともっと描くとさらに良かったと思うが、これは監督の計算なのかもしれない。ペコに対して実力を出さない(出せない)スマイル(ARATA)の本当の力をチャイナ(サム・リー)やドラゴン(中村獅童)や小泉コーチ(竹中直人)は見抜く。スマイルが力に目覚め始める前半のまま進めば、これはスマイルが主人公であってもおかしくない話だった。あるいは中国で落ちこぼれて日本にやってきたチャイナが主人公でもいいし、勝ち続けることを自分に課したたために卓球の楽しさを忘れてしまったドラゴンでも良かった。さらに限りなくどこまで行っても凡人にしかすぎないアクマ(大倉孝二)が主人公であれば、これはまた違った映画になったはずだ。スマイルに簡単に負けてしまい、「なんでお前なんだよー!」と叫ぶアクマの心情は「アマデウス」で天才モーツァルトに嫉妬した凡人サリエリの心情と同じものだろう。

曽利監督は、あるいは原作の松本大洋はペコを描くのと同じぐらいの比重をかけて、これらの脇の人物たちを描いていく。誰もが自分の人生では主人公。しかし、公の場でも主人公たり得ることが非常に稀であることもまた普遍的な真実だ。そしてペコを除く4人の選手はいずれも自分の限界を知っており、ヒーローの存在を信じている。インターハイの予選でペコに勝つことだけを目標に卓球を続けてきたアクマが、卓球を捨てたペコに再起を促す言葉を吐く場面が象徴的で(この場面は原作よりも映画の方がうまい)、これはヒーロー待望の物語でもある。大方のスポ根物語が描くような落ちこぼれが勝っていく快感とは別次元のところでこの物語は成立しており、それにもかかわらず、脇の人物たちが強い印象を残す。天才がただ勝っていくだけの物語なら、面白い映画にはならなかっただろう。

ペコの再起の場面で原作では大学の卓球部に通うエピソードがあるなど細かな違いはあるにしても、宮藤官九郎は原作をほぼ忠実に脚本化している。アクの強い絵の原作よりも映画はスマートすぎる感じにはなったが、これまたうまい脚本化だと思う。

【データ】2002年 1時間54分 配給:アスミック・エース
監督:曽利文彦 エグゼクティブ・プロデューサー:椎名保 プロデューサー:小川真司 鈴木早苗 井上文雄 原作:松本大洋 脚本:宮藤官九郎 撮影:佐光朗 美術:金勝浩一 音楽:二見裕志 真魚
出演:窪塚洋介 ARATA サム・リー 中村獅童 大倉浩二 荒川良々 近藤公園 平野貴大 末満健一 翁華栄 三輪明日美 小泉拓也 小沼蔵人 北山小次郎 山下真司 石野真子 松尾スズキ 夏木マリ 竹中直人

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