It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

棒たおし!

「棒たおし!」パンフレット

高校の体育祭の棒倒しで工業科に負けっ放しの普通科の生徒たちを描いた青春映画。城戸賞の受賞脚本を基に全編宮崎ロケした。脚本は「ウォーターボーイズ」を思わせる青春ものでとても面白い。映画はその生真面目バージョンという感じである。主人公の高山次雄を演じる谷内伸也の演技が堅く、相手役の紺野小百合(平愛梨)の演技も未熟なのが誤算だったと思う。この2人が中盤、小学校の校庭で話すシーンが2度あるが、いずれも相米慎二を思わせる長回しで撮られている。ところが、2人の演技では画面が持たないのである。演技的に未熟な部分があるのだから、ここは長回しに固執せず、カットを割った方が良かったと思う(平愛梨はラスト近くの列車を待つシーンまでアップらしいアップもない)。生真面目バージョンと感じるのは元の脚本にはない「人は死ぬと分かっているのに、どうして生きるのか考えた事ある?」という小百合のセリフが映画のポイントになっているからでもある。こういうダメ押し的なセリフが僕はあまり好きではない。そういうことは画面で見せればいい。笑って笑って少し感動させてという展開になるはずが、笑いも少しあるけど本音は真面目なんだぜ、という映画になったのはこういうセリフを入れたことと無関係ではないだろう。

主演の2人とは好対照にうまいのが心臓に病気を抱えながら、体育祭での棒倒しに懸ける久永勇(金子恭平)。脚本でも儲け役だが、金子恭平はいきいきと演じていて好感が持てる。真冬に撮影されたこの映画に熱い部分があるとすれば、それは勇の役柄しかない。前述の「人は死ぬと分かっているのに…」に対する勇の答は「そこに棒があるからだろっ!」で、実に単純明快である(ちなみに小百合の答は「希望があるから」)。しかし、棒倒しへの思いは単純ではない。恐らく、自分の命が長くないと知っている勇は命の輝きの証しが欲しかったのだと思う。小百合のセリフを体現しているのは実は勇なのだが、その割に勇の描き方が足りないのである。勇は棒倒しに興味を示さない次雄にビデオを見せる。このビデオが迫力満点の大学の棒倒しの映像で、これを見たら、荒々しいこの競技の魅力も分かるというぐらいの面白さ。残念ながら映画のクライマックスの棒倒しはこの迫力に欠けていた。主人公に熱さが足りない。棒倒しに懸ける気持ちが伝わってこない。勇のようなキャラクターがあと2、3人いれば、映画の印象は違ったものになっていたと思う。

クライマックスの棒倒しは脚本ではクラス対抗になっている。普通科の中では偏差値を下げていると言われ、工業科からは運動音痴と言われる落ちこぼれクラスの面々が奮起する話なのである。映画では工業科対普通科に簡略化してある。こういう構図だと、「普通科なら工業科より偏差値高いんだろ、棒倒しぐらい工業科に勝たせてやれよ」と思えてしまう。これは予算の関係での改変だったのかもしれないが、物語の根本的な部分なので、脚本通りの設定が望ましかった。脚本との比較でもう一つ言えば、勇は工業科の生徒から暴行を受けて入院するのだが、暴行で入院までさせたとなれば、暴行した生徒たちには何らかの処分があるだろう。元の脚本では工業科のクラスと練習試合中にけがをするという設定である。この方が話に無理がない。

アイドルたちが出演していても前田哲監督にアイドル映画を撮るつもりはさらさらなかったようだ。自分なりの青春映画を撮ろうとした意図はよく分かる。意図は分かるが、惜しいところで十分に結実してはいない。映画がうまくいっていない部分は端的に予算が足りなかったためと思われる。前田監督には十分な予算をかけた次作を期待したい。

【データ】2003年 1時間35分 配給:東京テアトル パル企画
監督:前田哲 製作:武政克彦 張江肇 竹中功 松下晴彦 鈴木ワタル 企画:橋口一成 プロデューサー:尾越浩文 木谷奈津子 吉田晴彦 榎本憲男 大橋孝史 ラインプロデューサー:松岡周作 脚本:松本稔 音楽:谷川賢作 撮影:高瀬比呂志 美術・装飾:龍田哲児 衣装デザイン:小川久美子
出演:谷内伸也 金子恭平 古屋敬多 鍵本輝 中土居宏宜 平愛梨 平田満 松田美由紀 滝裕可里 北村悠 沢詩奈々子 三浦友和

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