ホワイトアウト
日本最大の貯水量を誇るダムを乗っ取ったテロリストと1人のダム運転員の決死の戦いを描くアクション大作。5年前に原作が出たとき、“和製「織田裕二は「踊る大捜査線 THE MOVIE」に続いて頑張っており、演出の不備を大いに補っている。アクション映画の主役として十分の好演である。警察署長役の中村嘉葎雄もキラリと光る懐の広い演技を見せ、映画を引き締めた。
「あの人は来ないわ。また一人で逃げ出すのよ」。吉岡の婚約者でテロリストに囚われの身となった平川千晶(松嶋菜々子)にそう思われていようがいまいが、富樫輝男(織田裕二)にとって奥遠和ダムの人質を救うことは、死なせてしまった吉岡との約束を果たす意味があった。悔やみきれない親友の死をどう償うか、それが富樫の行動理由なのである。もちろん富樫には「このダムは絶対、お前たちの好きなようにはさせない」との矜持もある。放水管の中を通って奥遠和ダムを脱出し、8キロ離れた大白ダムまで豪雪の中を歩いてたどり着く。電話で話した警察署長・奥田の「もう十分だ。そこで休め」との言葉を振り切り、「俺、奥遠和に戻ります。必ず戻るって約束したんですよ」と、再び6時間かけて雪の中を歩き通す。富樫にはたった一人でテロリストたちに立ち向かう必然性があり、織田裕二の力の限りの演技も手伝って物語を説得力のあるものにしている。
こうした悲壮な決意がダメという人もいるだろう。「ダイ・ハード」のジョン・マクレーンは愛する妻と子どもを救うためという大きな目的があったが、もっと軽やかにビルの中を駆け回った。それに比べれば、この映画の主人公は最初から最後までやや悲壮すぎるきらいはある。織田裕二はキネマ旬報8月下旬号で「原作より泣けるところは多くなっている」と語っているが、別に泣けなくても構わないのである。それを救っているのは中村嘉葎雄の演技だ。警察側の描写にユーモアがなかったら、この映画、随分と寂しいものになっていたと思う。
テロリストたちの要求は50億円。のまなければ、人質を殺した上にダムを爆破し、下流の20万世帯に被害が及ぶ。ボスを演じる佐藤浩市は長髪と髭を伸ばしてドスのある演技を見せる。主人公の描写に単調さが感じられるようになったころ、テロリストの中のあるドラマが加わり、映画はクライマックスへと至る。ここは原作とは異なり、スペクタクルな場面が用意されている。黒部ダムと雪山を舞台にしたアクションはなかなか見応えがあるのだが、比べてはいけないと分かっていても「ダイ・ハード」ほどのエスカレーションがないのは残念。しかし、新人監督(テレビではベテラン)に手に負える題材ではないだろうと高をくくっていた僕にとって、この映画の出来はうれしい裏切りであり、アクション映画に欠かせない主人公の心情をしっかり描いていたことにも好感を持った。
【データ】2000年 2時間9分 製作:日本ヘラルド映画 フジテレビ 東宝 日本ビクター 電通 アイ・エヌ・ピー デスティニー 配給:東宝
監督:若松節朗 原作:真保裕一「ホワイトアウト」(新潮文庫) 脚本:真保裕一 長谷川康夫 飯田健三郎 製作:坂上直行 宮内正喜 岸田卓郎 高井英幸 企画:塩原徹 河村雄太郎 島谷能成 永田芳男 プロデューサー:小滝祥平 遠谷信幸 石原隆 臼井裕詞 撮影:山本英夫 美術:小川富美夫 ビジュアルエフェクト:松本肇 音楽:ケンイシイ 住友紀人
出演:織田裕二 松嶋菜々子 佐藤浩市 石黒賢 吹越満 橋本さとし 工藤俊作 古尾谷雅人 平田満 中村嘉葎雄 河原崎健三 山田辰夫 石井愃一