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秘密

「秘密」

滝田洋二郎監督のことだから、もしかしたら原作よりも父親寄りの立場で映画化するのではないか、と予想していたが、そうではなかった。もちろん、映画も原作も父親(小林薫)が主人公なのだが、このストーリー、男から見ると、ちょっと複雑な気持ちにさせられるのである。結果的にこれは若返った妻だけが第二の人生を謳歌して幸せになる話で、夫は置き去りにされる。そのあたりの心情をもっと描くのではないかと予想していたのだ。脚色の斉藤ひろしはコメディ路線が得意だから、全体的に原作よりもユーモラスな場面が増えている。特に後半、妻に他の男の影が見えてくるところから、原作は嫉妬した夫が電話に盗聴器を仕掛けるなどやや重たい描写が続く。映画はそんな場面でもユーモアを忘れず、印象は極めて軽やかだ。心地よい映画に仕上がったのは広末涼子と小林薫のキャラクターも大きい。

実際、広末涼子がこんなに良いとは思わなかった。「20世紀ノスタルジア」も「鉄道員」も見ていないので出演映画に接するのはこれが初めてだが、表情や仕草が実に自然。もともとのキャラクターでもってる部分もあるが、演技に対して真剣なようだ。小林薫とのかなり際どいシーンも難なくこなしている。交通事故で重傷を負った妻の意識が死ぬ直前に娘の体に乗り移るというファンタスティックなストーリーを納得させるには、かなりの演技力が要求される。広末はそれに見事にこたえている。ただのアイドルとは違うのである。これに比べると、好演は十分認めるものの、小林薫の演技はややしつこく感じる。ユーモラスな場面での演技は作りすぎだろう。

原作では妻が乗り移るのは小学生の娘の体。だから前半のスラップスティック調が生きている。映画ではいきなり高校生だが、上映時間の関係上、これは仕方がない。問題は娘の意識が戻り始め、妻の意識が消えていくクライマックスからラストに至る描写が、やや駆け足になってしまったことだ。原作を読んでいると、この場面が短くて物足りない。ここだけでも一本の映画になりうるほどの題材なのだ。ラストの“秘密”が分かる仕掛けも映画なりに最初から伏線を張って工夫してはいるが、原作の方が奥が深く切ない。ただし、斉藤ひろしの脚本は原作の雰囲気を損ねてはいない。バス運転手の息子(金子賢)と小林薫が心を通わせる場面は、ホロリとさせられた。

特筆すべきはCGIの自然さ。スキーバスの転落事故が起きる真冬のシーンはCGIで雪や吐く息の白さを表現したそうだ。真冬にロケしたとばかり思っていたので驚いた。クランクインが7月18日なので、考えてみれば、雪などあるはずがない。

原作を読んだときにも思ったのだが、橋本先生(石田ゆり子)には後半にも登場してほしかった。映画では特に石田ゆり子がいいので、前半で消えてしまうのはもったいない。

【データ】1999年 東宝 1時間58分
監督:滝田洋二郎 原作:東野圭吾 脚色:斉藤ひろし 音楽:宇崎竜童 撮影:栢野直樹
出演:広末涼子 小林薫 岸本加世子 金子賢 石田ゆり子 伊藤英明 大杉漣 山谷初男
篠原ともえ 螢雪次朗 國村隼 斉藤ひろし 東野圭吾

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