シネマ 2004年11月

「2046」
名女優たちの魅力的な演技
(2004年11月4日)

木村拓哉の海外初出演作と話題づくりされているが、軽い気持ちで見に行くとただの睡眠剤にしかならないかもしれない。さまざまな感情・思い出の引き出しを持った「大人」が見るべき作品だ。

物語はある男の恋愛遍歴を彼が書く小説の内容とリンクしながら進んでいく。これはウォン・カーウァイ監督の前作「花様年華」の続編であり、これを観賞した後に見ると、細かい部分がより分かりやすくなる。

この作品の見どころは女優だ。フェイ・ウォンのアンドロイドのはかなさ、カリーナ・ラウの悲しさ、チャン・ツィイーの強さともろさ、コン・リーの円熟した雰囲気。新旧の名女優が見事に自分たちの役割を演じ、演出されている。チャイナ服をあのピンと伸びた背筋で着られると、その上質な絹の肌触りまで連想させて官能的だ。

今も心に残る思いを持っている人ならば、この中の誰かがきっと、あなたに似た人、かもしれない。(手塚)


「笑の大学」 台本の検閲で喜劇作家攻防
(2004年11月11日)

戦争間近の昭和十五年。笑いをこよなく愛する喜劇作家と、ユーモアのまったく通じない警視庁保安課の検閲官とが一つの台本をめぐって繰り広げるおかしくも熱く、感動的な物語である。

度重なる駄目出しにも屈することなく出直してくる作家(稲垣吾郎)によって、堅物の検閲官(役所広司)が笑いの扉を開け、ついには一緒に喜劇台本を作り上げていく。

役所広司の演技は絶品で、堅物が思わず笑いに乗せられていく瞬間などこっけいさがたまらない。一方、稲垣吾郎も柔らかい語り口の中に、意志の強い作家を見事に表現している。ラストでは思いがけない事態に胸を締め付けられ、涙する。思い切り笑い、涙することほど、気持ちのいいことはない。この映画は日常の悩みにめいりがちな現代人の特効薬となること間違いなしだ。

原作は三谷幸喜。監督は「古畑任三郎」などテレビの演出家で、長編映画はこれが初めての星護。(杉尾)


「父と暮せば」
戦争の痛み呼び覚ます
(2004年11月18日)

広島の原爆で生き残ったことに負い目を感じている美津江(宮沢りえ)は原爆の資料を収集している学者の木下(浅野忠信)と出会う。二人は互いにひかれ合うが、美津江は自分の恋心をかたくなに抑え込む。そこへ原爆で死んだ彼女の父・竹造(原田芳雄)が幽霊となって現れ、“恋の応援団長”となって心を開かせようとする。

昨年、県文化賞を受賞した黒木和雄監督の新作。前作「美しい夏キリシマ」は戦争の悲惨さをテーマにしながらも監督の少年期の体験を交え、ほのぼのとした部分がある作品だった。今回は戦争に反対する強い意志が直接的に伝わってくる。

この作品は私たちが忘れかけている「戦争の痛み」の記憶を鮮明に呼び覚ます。そしてこの「痛み」こそ、今の日本人が忘れてはならないと監督は訴える。監督の強い意志がひしひしと伝わってくる作品だが、一方で犠牲になった人たちへの優しいまなざしも忘れていない。(酒井)


「いま、会いにゆきます」
夫婦愛と親子愛優しく描き出す
(2004年11月25日)

最愛の妻澪(みお)は「一年後の雨の季節に戻って来ます」と言い残して病気で亡くなった。そして本当に一年後の雨の季節に夫と六歳の息子の前に姿を現す。六週間後に再び妻は消えてしまうが、物語はそれだけでは終わらない。終盤に明らかにされる真相が映画の感動を一層高める。

夫婦の愛、親子の愛をストレートに優しく描き出した久々の本格ラブストーリーであり、夫婦を演じる中村獅童と竹内結子が力まず、ごく自然に演じている。

確かに、現実にはあり得ない(?)ファンタジーだが、緑の森の奥、秘密の場所の美しさに見とれていると、そのままファンタジーの世界に引き込まれてゆく。理屈なんていらない。「なぜ?」なんてやぼなことは言わないで、この物語に付いて行こう。原作は市川拓司。監督はテレビドラマ「愛していると言ってくれ」などを手掛けた土井裕泰で、これが映画デビュー作となった。(林田)