座頭市
圧倒的に強い主人公に興奮
世の中にはワンサイドゲームの楽しさというものがある。この「座頭市」もそうだ。それほどこの座頭市、強い。仕込み杖を抜いた瞬間に勝負は決しており、どうやって相手を切ったのか、分からないほどだ。
物語は町を牛耳る悪者を主人公が倒すという、まるでテレビの時代劇のような陳腐さなのだが、確かにこれほど強ければ、そこにドラマなど生まれるはずもない。
ベネチア映画祭で銀獅子賞を受賞したこの映画は「斬新」と評価されている。しかし、タップダンスと時代劇の結び付きは阪東妻三郎の映画に先例があるし、雨や血しぶきは明らかに黒澤明だろう。もしこの映画が「斬新」なのだとしたら、それはドラマ性の不在にある。
にもかかわらず「座頭市」は観客を阪妻や黒澤を想起させるクラシックな映画の興奮へと導く。その矛盾の抱え込みこそがこの作品が傑作であることの証しにほかならない。(2003年10月16日・臼井)