イン・ザ・カット
濃密な“女"の雰囲気を堪能
オープニングの「ケ・セラ・セラ」の不確かな調べと美しい花びらの舞いが観客を一気に、ただし不吉な予兆を持って物語に引き込んでいく。
メグ・ライアンはこの役のために今までの彼女のキャリアがあったのでは、と思わせるほどの適役。仕事あり独身恋人なしの彼女は殺人事件をきっかけにある男性と出会う。それは愛や恋ではない。もっと深い何か、である。劇中登場する詩の数々が彼女の深い心の内を表すキーワードになる。その言葉は映画の雰囲気そのままに性的で濃厚だ。殺人事件の犯人は誰か、という謎解きはこの作品ではあまり関係ないように思える。そんな事はどうでもいい。
血まみれの殺人現場の光景ですらその赤を美しく思ってしまうほど、濃密な女を感じさせる雰囲気、そのにおいを感じているはずなどないのに頭の中がまひ。映画のエンドロールが流れるまで心地よい濃厚な雰囲気に浸ってほしい。(2004年4月22日・手塚)