美しい夏キリシマ
黒木和雄監督から直接笑い話として聞いた話だが、この作品にある性描写が問題となって、文科省は、特選はおろか、推薦することさえためらったという。実際に映画を見てもらえれば分かるだろうが、性描写はあるものの、観客はそれにいかなる情欲をもかき立てられることはない。もっともそれを生きる悲しみだとか、戦争の悲劇だとか、誰もが理解できるような言葉にすり替えてはならない。すり替えは一種の閉塞でしかなく、それが先の役人のような愚挙を引き起こすことになるからだ。
賢明な観客にできることといえば、この映画を現実のものとして体験することに尽きる。事実、この映画は1945(昭和20)年の空気を、光を、風を、現在のものとして観客に差し出す。まず、その達成の深さに驚くこと。その時、この映画の無限の可能性が開かれる。感想を述べて終わってしまうような映画では断じてない。(2004年4月29日・臼井)