ミシェル・ヴァイヨン
悪役に力なく恐ろしい作劇
下火であるモータースポーツ復興の起爆剤となるであろうフランス映画の快作だっ! と見る前はこの文章の末尾を決めていたのだが、そんな映画ではなかった。
善と悪を示す言葉としてエエもん、ワルもんという語が関西弁にあるが、青がエエもんで赤がワルもん、というのがこの映画である。しかも普通、ワルもんはエエもんと比肩する力を持ってこそ面白いわけだが、このワルもんにはそんな力はない。全くない。恐ろしい作劇である。
その代わりに勝つための方策として拳銃は使う、誘拐はする、揚げ句の果てに色仕掛け。モータースポーツ映画のはずだが…と自問する観客を置き去りにして、ワルもんは悪の限りを尽くす。ただの卑劣漢という気もしないではないが、そういえば最近これほど悪に徹したワルもんを見てないことに気づき、ある種すがすがしかったといえばすがすがしかった。(2004年2月12日・臼井)