砂の器
宿命に苦しみ 息子愛する父
昨年、デジタルリマスター版が首都圏で再公開され、DVD化された1974年の名作。ある殺人事件を追っていた刑事が見た真実は時代が生んだ差別の悲劇だった。
原作は松本清張。何度もドラマ化されているが、丹波哲郎主演の本作に涙した人は多いのではないか。秀逸なのは事件のあらましを刑事が語る場面。音楽家の加藤剛が奏でる交響曲に村を追われた父と幼い息子のお遍路の旅が重なる。他人からの施しと偏見に生きる父親の苦悩を加藤嘉が演じ切っている。
自らの宿命に苦しみながらもひたすら息子を愛する父。その父の思いを理解しながらも、その宿命から逃れようと罪を犯した息子。長年居所も分からず、唯一「死ぬ前に息子に会いたい」と願った父が刑事に告げた言葉。そこには今の私たちが忘れかけている奥ゆかしくも強い愛があふれている。もう一度見直したい作品である。野村芳太郎監督作品。(2006年1月5日・手塚)