雪に願うこと
人と馬の再生への願い
内証にしておきたい作品というのがある。昨年の東京国際映画祭でグランプリを受賞した本作はそんな気になる映画である。
雪景色の北海道が美しい。東京で会社に失敗した学(伊勢谷友介)はその北国の故郷で“ばんえい競馬”の厩舎を営む威夫(佐藤浩市)の元に転がり込み、厩舎暮らしを始める。
ここで学は、一度は処分の決まった馬を復帰戦に向けて世話するようになる。十数年ぶりに帰ってきた学に初めはつらくあたる威夫。だが、徐々に優しさを示し始める。人馬の、そして人と人の心のきずながこの映画では端正に語られる。
冬の間だけダムが凍って現れる石橋を学が見に行く場面が印象深い。橋が人と馬、人間同士の「心の橋」に思える。普段は見えないが、架かっているのだ。競争社会からあぶれた人と馬の再生への願いも「橋」を通して見る者の胸に伝わってくる。根岸吉太郎監督の名作である。(2006年7月6日・小野)