トム・ヤム・クン
使い青年のムエタイ圧巻
今の中国(香港)にジャッキー・チェン、ジェット・リーという活劇スターがいれば、タイにはトニー・ジャーがいる。そう痛感させるアクション映画である。
トニーが扮(ふん)するのは象使いの青年。家族同然に愛してきた象が密輸組織によって国外に連れ去られる。象捜しの旅に出たトニーはレストラン「トム・ヤム・クン」に巣くう組織の悪党どもと対決する。
タイの武術ムエタイによる鮮やかなアクションのつるべ打ちに目が離せない。四階建ての建物の回廊を、悪漢たちをなぎ倒しながら上っていくシーンは圧巻だ。約4分のワンカットで撮られたこの場面は、大げさでなく、長く映画史に残るシーンだろう。トニー・ジャーと監督のブラッチャヤー・ピンゲーオはとてつもないことをやってのけた。スープ「トム・ヤム・クン」のようにうまいが、後に残る辛さも十分の本作は国際的に名をなす味わいの一品だ。(2006年9月28日・小野)