出口のない海
「回天」に乗る若者たち描く
「半落ち」の佐々部清監督が再び横山秀夫原作に挑んだ新作で、映画初出演の市川海老蔵が主人公の並木浩二に扮した話題作である。
並木は甲子園の優勝投手で、大学でも野球に情熱を燃やしている。しかし太平洋戦争が激化してきたために、愛する人たちを守るべく、海軍が開発した最後の秘密兵器「回天」に乗り込む。
回天とは戦争末期、魚雷を改造して人間に操縦させ、敵艦に「特攻」させた文字通りの「人間魚雷」である。だが、操作手順は複雑で、並木ら若者たちはそれを必死に覚えて死にに行かなければならない。中は狭く、いわば火葬場。棺おけに生きながら入り、烈火に身を躍らせるようなものだ。そのあまりにも非人道的な在り方にぞっとする。
映画を見ると、こんな悲劇を二度と起こしてはならないという気持ちにさせられる。靖国参拝や改憲で揺れる今、多くの人に見てほしい作品である。(2006年10月5日・小野)