うつせみ
静かで優しいギドク監督作
韓国の奇才キム・ギドク監督作。孤独なふたつの魂が通い合い、寄り添っていく物語。
主人公の青年はまるでやどかりのように留守宅に入り込んで生活している。気味の悪い行為だが、さわやかな表情で家の掃除・洗濯をし、風呂に入ったりする姿はあまりに自然。ただ時間と場所を借りるだけ。そんなある日、忍び込んだ家で、夫からの暴力に苦しんでいる女と出会う。
留守宅を転々とする彼はどれだけの孤独を抱えて生きてきたのか。そんな青年が傷ついた女と出会い、ひかれ合う。ひと言も発しない彼は女を守護天使のように見つめている。それは主人を守る飼い犬のようでもある。
孤独を癒やすのは愛。それが無償のものならばなお、傷も癒えるだろう。寄り添う2人の姿には、まるで動物の親子のような、本能からの愛を感じる。ギドク監督らしい血のにおいを漂わせつつ、静かで優しい大人のおとぎ話だ。(2006年10月19日・手塚)