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シネマ1987online

紙屋悦子の青春

戦時下に生きる女性の悲しみ

えびの市出身の黒木和雄監督作。「父と暮せば」など戦争3部作に続いて戦時下に生きる庶民を描く。「父と…」と同じく、戯曲の映画化である。

太平洋戦争の敗色濃厚な1945(昭和20)年、春。空襲で両親を亡くし、鹿児島で兄夫婦と暮らす紙屋悦子(原田知世)は兄の後輩・明石少尉にひそかな思いを寄せていた。ある日、彼女に縁談が持ち上がる。相手は明石の親友、永与少尉(永瀬正敏)で兄と明石自身の勧めだった。悦子は迷うが、永与と見合いすることを決意する。

悦子の思いを知りながら、兄(小林薫)が明石との結婚に消極的だったのは航空隊の軍人である明石の戦死を危惧したからだ。戦争のために最愛の人と寄り添えない、青春を奪われた女性の悲しみ。黒木監督は限定された空間で、そんな切り口から戦争のむごさを描いてみせた。

それでいてユーモアもふんだんだ。監督の遺作となったのが大変惜しまれる。(2006年12月21日・小野)

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