It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

善き人のためのソナタ

自由奪われた旧東独の怖さ

今年のアカデミー外国語映画賞を受賞したドイツ映画。政治に翻弄(ほんろう)され、自由を奪われた旧東ドイツを舞台にシュタージ(国家保安省)の監視の下、密告の恐ろしさを見せつける。言論の自由も芸術の自由も音楽の自由も奪われ、恐怖の毎日であっても、人間は一曲の美しい音楽に心を奪われるという慟哭の物語である。

シュタージの局員ヴィースラー(ウルリッヒ・ミューエ)は劇作家とその恋人である女優の自宅を監視する毎日。盗聴器を通して二人の人間味あふれる会話と美しいソナタを聴き、次第に彼らに魅せられていく。

壁崩壊間近い東ベルリンのピリピリとした冷たい空気が伝わる。人は食べるだけに生きる動物ではない。豊かな芸術は心の生きる糧である、との希望が見えてくる美しい映画でもある。東ドイツ出身のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督は子ども時代、大人の震える姿を見て育ったという。(2007年6月21日・林田)

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