オリヲン座からの招待状
無法松に重ね男女の愛描く
浅田次郎の短編集「鉄道員」所収の同名小説の映画化。昭和20年代から続いてきた西陣の映画館「オリヲン座」が閉館することになった。この映画は亡き夫の遺志を継ぎ、館を守ってきたトヨ(宮沢りえ)と彼女を支え続けた留吉(加瀬亮)の姿を優しく見つめた作品である。
「オリヲン座」最終興行の招待状が、館を遊び場として育ち、今は東京で結婚して暮らしている男女のもとに届く。この出だしは原作通り。だが、原作は離婚危機にあるこの男女を中心に話が進むのに対して、映画は思い切って脚色している。作中に登場するキーとなる映画も「無法松の一生」(阪東妻三郎版)に変更。静のドラマに祗園太鼓の「生」の躍動感をもたらし、松五郎と陸軍大尉の未亡人に留吉とトヨの姿を重ねている。2人の愛を描くことに一層の力を注いだ脚本と三枝健起監督の演出をたたえたい。
心が洗われるような一編である。(2007年11月15日・小野)