フィクサー
人物造形のリアルさ堪能
ジェイソン・ボーン3部作の脚本を手がけたトニー・ギルロイの初監督作品。発がん性物質を含む農薬販売で集団訴訟を起こされたニューヨークの巨大企業。弁護士事務所のアーサー(トム・ウィルキンソン)は企業側敗北の決め手となる機密文書を入手し、良心の呵責(かしゃく)から原告側に寝返りを図る。同僚マイケル(ジョージ・クルーニー)は事態収拾を任されるが、企業側も隠ぺい工作に乗りだし、口封じのための殺人に発展する。
エリートである彼らのつながりは金のみ。利益の前には企業倫理も意味をなさず、人の命を奪うことさえ正当化される。マイケルの表情に漂う苦悩の影が印象深い。
企業の広報部長カレン役でアカデミー助演女優賞のティルダ・スウィントンは強い上昇志向と過度のストレスを抱えながら保身に走り、自分を見失う姿を見事に演じている。前半の展開が分かりづらいが、リアルな人物造形を堪能できる作品に仕上がった。(2008年5月29日・のだ)