ぐるりのこと。
世相反映した夫婦のドラマ
「世の中の美しいことや醜いこと、それらをぐるっと描けたら」というのが橋口亮輔監督による一風変わったタイトルの由来。1993年から約10年間の夫婦のドラマである。
出版社に勤める妻翔子(木村多江)と法廷画家の夫カナオ(リリー・フランキー)。2人は初めての子を身ごもった幸せをかみしめていた。だが、子どもは死に、妻は徐々に精神を病んでいく。そんな彼女をカナオは優しく抱き留め、一緒に生きていこうとする。
宮崎勤事件やオウム事件をほうふつさせる裁判でカナオの姿が印象的だ。彼は仕事柄「中立」の立場にあるが、凶悪事件の数々に心静かなわけはない。だが、いつも無表情に事件を見つめ続ける。凶悪事件が相次ぎ、殺伐とした世の中になればなるほど、翔子との夫婦は深く温かなものになっていく。そこが見る者の胸を打つ。リリー・フランキーが実にいい。彼の演技が長く心に残る秀作である。(2008年9月18日・小野)