わが教え子、ヒトラー
独自の視点で独裁者を描く
1944年、第二次世界大戦末期のドイツ。精神を病み、意欲を失った独裁者ヒトラーにはもう戦う気力も残っていない。今一度力強い演説で国家の危機を乗り越えたいとたくらんだゲッペルスは、収容所からユダヤ人俳優のアドルフ・グリュンバウムを連れて来て演説の指導をするよう命令を下す。彼にはヒトラーを殺すチャンスもあったが、家族のことを思うとそれもできない。演技指導をしているうちに思わぬヒトラーの姿が見えて妙な親近感が生まれてくる。
このような視点で描かれるヒトラーは初めてだ。ブラックユーモアにあふれ、多少は緊張もほぐれて見ていたが、やはり最後はそれだけでは終わらなかった。「善き人のためのソナタ」で熱演したウルリッヒ・ミューエがヒトラーを指導するユダヤ人として温かい演技を見せる。この後、急逝し、これが彼の最後の作品となった。監督・脚本はダニー・レヴィ。(2009年5月28日・林田)