It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ

ダメな小説家支える妻の姿

モントリオール世界映画祭で最優秀監督賞を受賞した根岸吉太郎の話題作。太宰治文学の映画化に挑んでいる。

題名の「ヴィヨン」とは15世紀フランスの詩人にして泥棒のこと。才能はあるが、酒におぼれ、多額の借金をつくっている小説家、大谷穣治(浅野忠信)が重なる。1946(昭和21)年のある夜、彼は飲み屋の酒代を踏み倒したうえ、5千円の金を盗んで逃げだしてくる。それを知った妻の佐知(松たか子)は表ざたにしてほしくない代償にその飲み屋で働き始める。器量のいい佐知はたちまち店の評判となるが、そんな矢先、大谷が愛人の秋子(広末涼子)と心中未遂する。

太宰をほうふつさせる小説家を演じる浅野のダメ男ぶりと彼を柔らかに支える松の姿がいい。根岸監督の名演出で、離れようにも離れられない男女が愚かしくもいとおしい。見た直後よりも数日たってから酔いが深まる男女の映画である。(2009年11月5日・小野)

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