牛の鈴音
老夫婦と牛の温かい絆
物言わぬ動物の瞳には何かしら切ない気分にさせられる。30年も同じ牛を使い、田畑を耕し、稲を植え、足代わりにしてきたチェじいさん。彼ぐらい年寄りの牛は足もよたよた、長い間重い荷物を運んで体は傷つき、若い雌牛に食べ物を横取りされたりもする。それでも毎日おじいさんとおばあさんを荷台に乗せ、首の鈴音を鳴らしながら畑へゆっくりと進む。
韓国で大ヒットしたドキュメンタリー。監督はこれが1作目のイ・チュンニョル。音楽を極力抑え、鈴の音だけが心地良く響いてくる。
雑草抜きが大変だから農薬をまいてくれ、とおばあさんが愚痴を言う。それでは牛にあげる草が毒になる、とおじいさんは聞かない。作物にこだわっているのではない。彼は、ずっとそうしてきたからそうするのだ。立派な理由などなく、単純に自分の暮らしをしてきたおじいさんと、そこに自然と存在していた牛との絆が温かい印象を残す秀作。(2010年4月22日・手塚)