八日目の蝉
誘拐した子に痛ましい愛情
妻子ある男の子どもを堕胎し、男の妻からなじられた主人公(永作博美)は男の家から赤ん坊を衝動的に誘拐してしまう。角田光代の小説を「孤高のメス」の成島出監督で映画化。
二つの大きなテーマがある。一つは母性。主人公は母になれない悲しみを、愛した男の妻が産んだ子どもを慈しみ育てることで大きな愛へと浄化した。痛ましいほどのその愛情には涙すること必至。もう一つは生きること。生きていれば良いことがある、そう口にするのは簡単だが、どんな良いことがあるか答えられる人はそういない。東日本大震災の被災者が恐怖と寒さに震えながら見上げた夜空にたくさんの星が輝いていたのを見た、と聞いた。「八日目の蝉」という題名に込められた意味に通じるエピソードだ。
見終わった後に誰かの声が聞きたくなる。大きな愛を持ちたいと、生きていることは素晴らしいと前向きな気持ちにさせられる秀作。(2011年5月19日・手塚)