サラの鍵
ラスト数秒に穏やかな希望
「早く帰らなければ、弟が死んでしまう」。サラ(メリュジーヌ・マヤンス)の悲痛な叫びが収容所にむなしく響く。繊細で透き通るような白い肌、強い意志を宿した瞳がサラの焦燥感を映す。1942年7月、ナチスドイツ占領下のパリ。フランス警察は1万3千人のユダヤ人を一斉検挙した。激しくたたかれる扉、恐怖にゆがむ母の顔。サラは幼い弟を納戸へ隠して鍵をした。「すぐに帰る」と約束して。
緊迫感と恐怖に動悸(どうき)が抑えられない。弟はどうなるのか。60年後、雑誌記者のジュリア(クリスティン・スコット・トーマス)は過去のユダヤ人迫害事件を調べていた。解き明かされる真実にジュリア自身も重大な選択をする。
実際にあった悲惨な事件を背景に人間の本質を絡め、生きることを問う。そして託されていく命。ラスト数秒間の感動に穏やかな希望が生まれる。監督・脚本はパリ生まれのジル・パケ=ブレネール。(2012年3月29日・杉尾久)